神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
XII
…眩しい、青い光が開けた先に。

待ち受けていたのは、小さな小部屋だった。

まず真っ先に確認したのは、勿論。

「シルナ…」

「羽久…」

お互い、顔を見合わせた。

…良かった。本当に、同じ数字を引き当てた者同士は、同じ世界に送られるんだな。

俺は今回、シルナと共にアリスの招待状を探すことになる訳だ。

全員一緒だった『シンデレラ』のときほどの安心感はないが、しかし一人でないことにホッとした。

…さて。改めて。

「これから、どうすれば良いんだ…?」

「書いてあることに従え、って言ってたけど…」

書いてあるって、何処に何が書いて、

…あ。

今いる小部屋の小さなテーブルの上に。

「drink me」と書かれたラベルの貼られた小瓶が、二本置いてるのを見つけた。

小瓶の中には、およそ美味しそうとは思えない、濃い青い液体が並々と満たされていた。

…。

…怪しさ満点の飲み物を発見した。

「シルナ、何だあれは」

「…怪しいね」

「drink me」と言えば…『不思議の国のアリス』では、お馴染みとも言える文句だが。

実際目の前に出されると、怪しさしか感じない。
 
アリスは、よくこんな怪しい飲み物を飲んだもんだよ。

拾った(?)食べ物や飲み物を食べちゃ駄目だって、小さい頃教わらなかったか?

そして、青い小瓶を前にした俺とシルナは。

「…どうするよ、これ。…飲むか?」

「う、うーん…。どうしよう…」

シルナでさえ躊躇っている。

これがチョコレート飲料だったら、迷わず飲んでたと思うが。

さすがに、この得体の知れない青い液体は、いくらシルナでも気が引けるらしい。

「いかにも怪しげだな…」

「でも…言ってたよね、さっき…ハンプティ・ダンプティが」

あ?

「書いてあることに従えって…これのことだよね?」

…あぁ、成程。

要するに、「drink me」の指示に従えと。

…飲めってことか。これを。

俺達に選択権はないのか。

「飲まずに済まされないだろうか…」

「ど、どうだろう…。ハンプティ・ダンプティがわざわざ、指示に従うよう忠告してきたってことは…恐らく、従わないと招待状を手に入れることは出来ないんじゃ…」

「…そうか…お前もそう思うか…」

俺も、そうなんじゃないかと思ってたところだよ。

あまりにも怪し過ぎて、あまりにも飲みたくないから、必死に抵抗してたけども。

…やっぱり飲まないと駄目だよなぁ。

「…仕方ない。飲むか…」

俺は自分も小瓶を手にし、シルナにももう一本渡した。

…改めて見ると、身体に悪そうな色してるな。

これ、本当に飲んで大丈夫なのか?

いかにも怪しいお薬って感じ。腹壊しそう。

…ブルーハワイジュースだと思おう。

俺は意を決して、小瓶のコルクを取った。
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