神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
魔法を制限されなかったのは、不幸中の幸いだったが。

このミニチュアサイズじゃ、魔法が使えたところで大して意味はない。

結局、魔法なんてあってないようなものか…。

…ところでこれ、招待状を見つけたら、ちゃんと元に戻るんだよな?

一生このサイズなんて嫌だぞ。死んでも嫌だ。

せめて死ぬなら、ちゃんと原寸大で死にたい。

テントウムシサイズの遺体じゃあ、まともに埋葬もしてもらえないじゃないか。

…って、死ぬことを前提に考えるな。

生きて、元に戻るつもりでいろ。

その為には、早いところお茶会の招待状とやらを探さなければ。

「それで…?何処に行けば良いんだ…?」

この部屋の中には、招待状らしきものはなかった。

多分、この部屋から出なきゃならないんだろうけど…。

当然ながら、部屋に扉があったとしても、今の俺達じゃ開けられない。

こんな変わり果てた姿で、一体何処に行けば…。

…と、思っていると。

「…!羽久、あれ見て」

「あ?」

シルナが何かに気づいて、指を差したその先に。

白い壁の片隅に、ネズミの出入り口のような、小さな抜け穴を発見。

…今の俺達に、超お誂え向きだな。

どうぞここを通ってください、と言わんばかり。

ってか、ここ以外に何処に行けと?

誘導されてるようなもんだろ。

この先に何があろうとも、前に進むしかない。

「…ここを通れってか…」

「そうみたいだね…」

…分かったよ。覚悟を決めれば良いんだろう?

俺ももう、ゴチャゴチャ言うのやめるよ。

行くよ。招待状を見つける為には、こうするしかないんだからな。

「…よし、行くか」

俺はシルナと共に、壁の抜け穴に向かって歩いた。

抜け穴の中は真っ暗で、先が見えなかった。

壁の穴の中に、街灯がある訳もなし。

「暗っ…。前が見えない」

「大丈夫?羽久。うっかり転ばないように気をつけて」

「それはお前だ。足元、躓いて転ぶなよ。見なかったことにして置いてくぞ」

「…せめて、振り返るくらいはして欲しかったな…」

悪いが、先を急いでるもんでね。

暗闇の中を、手探りで進むなんて御免…。

…あ、そうだ。

「こんなときに、魔法が役に立つじゃないか。…eirf」

俺は杖を取り出して、炎魔法を明かり代わりに使った。

ぽっと火が付き、お陰で前後左右の確認くらいは出来るようになった。

もっと早く、こうしておけば良かった。

貧弱な魔法しか使えないが、今ばかりは感謝だな。

「よし、これで前に進める…」

…と、安心して進み始めたのも、束の間。

最初の試練とばかりに、背後から不穏な影が忍び寄っていることに…俺達は、まだ気づいていなかった。
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