神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
深夜だったが、急遽ナジュと天音を呼んできた。

天音の方は「緊急事態から来て」と言うと、飛び起きて来てくれたが。

ナジュの方は、

「も〜…。何なんですか?今リリスとイチャイチャしてたのに…」

などと、不満たらたらであった。

「幽霊が出たんだよ」

どうだ。少しは驚いたか。

しかし。

「幽霊?幽霊が出たくらいで、僕のイチャイチャタイムの邪魔をしないでください」

殴るぞお前。

幽霊だぞ。もっと反応ってもんがあるだろ。

「全くもう…折角良い感じに盛り上がって…。え?本当に幽霊が出たんですか?」

「そうだよ」

「…」

ナジュは、しばしぽやんとしてから。

「何で捕獲しなかったんですか?」

と、尋ねた。

何で捕獲前提なんだよ。

「捕獲しようとしたけど、逃げられたんだよ」

「へぇ。幽霊って、意外とすばしっこいんですね」

そうらしいな。

あの令月とすぐりから逃げるんだから、なかなかのもんだよ。

すると、天音が横から聞いてきた。

「そ、それで羽久さん。あの、学院長先生は…?」

「…ご覧の通りだよ」

シルナは、気絶したまままだ目が覚めていない。

すぐりの糸繭にくるまれたまま、ミノムシみたいになって意識を失っている。

情けない姿だ。

余程幽霊が怖かったと見える。

「だ、大丈夫かな…。学院長先生、学院長先生!起きてください」

天音が必死になって、シルナを揺り起こそうとしたが。

「…」

シルナ、無反応。

もう死んでるんじゃね?

「幽霊を見た程度で死ねるなんて…幸せな人生ですね」

ナジュの皮肉が突き刺さる。

全くだよ。

「シルナは放っといて…さっきの黒い影について話し合おうぜ」

「ほ、放っといておくのは可哀想なんじゃないかな…。とりあえず、毛布だけかけておいてあげよう…」

そう言って、天音は保健室から毛布を持ってきて、気絶したシルナにそっとかけてあげていた。

天音が優しくて良かったな、シルナ。
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