神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
あまりに疲れ過ぎて、もうこのまま倒れ込んで、しばらく休みたい。

…が、そんなことをしている余裕はない。

すぐに立ち上がって、招待状を探さなくては。

「羽久、大丈夫?立てる?」

「はぁ、しんど…。…大丈夫だ。自分で立てる」

俺はよろめきながらも、自分の足で立ち上がった。

ここでへばってる暇はないぞ。

へばるなら、せめて招待状を見つけてからだ。

…すると、シルナは何を思ったか。

「…はっ!チョコケーキは!?」

あ?

「チョコクリームとイチゴたっぷりの、巨大チョコケーキ…」

…洗脳が効き過ぎている。

「あれは嘘だ。方便だ!さっさと探すぞ」

「えぇぇぇ…!チョコケーキ…!」

うるせぇ。

アホなこと言ってないで、招待状を探すぞ。

正直、俺ももう体力の限界だからな。

この食料庫になかったら、そろそろお手上げだ。

「これは…牛乳の瓶か。こっちは、ジャムの瓶…」

食料庫に保存されている食材を眺めながら、俺は招待状が紛れ込んでいないかを確認した。

バターやヨーグルトなんかもある。

乳製品勢揃いだな。

「こっちは…凄い匂い。チーズだろうな…」

このサイズじゃ、たかがチーズの匂いも相当強烈だ。

鼻が曲がりそう。

「…それにしても、羽久」

と、シルナが口を開いた。

「何だ?」

チョコケーキは、ここにはないぞ。

しかし、シルナが口にしたのは、チョコケーキのことではなかった。

「…何だかここ、寒くない?」

…シルナにそう言われて、初めて。

俺は、身体にひんやりと感じる、冷たい空気に包まれていることに気がついた。

あまりの疲労感と、さっきシルナを引っ張り上げたせいで、身体が熱くなっていたから、分からなかったが。

ここ、めちゃくちゃ寒くないか?

「もしかして…もしかしてなんだけど…ここって、もしかして冷蔵庫?」

「…そうかもしれない」

耳を澄ませたら、冷蔵庫が駆動する、ゴーッという低い音も聞こえる。

食料庫だと思ってたけど、これ冷蔵庫だったのか。

いや、でも。

「ドア開いてたじゃん。冷蔵庫なのに…」

「開けっ放しになってるみたいだよ。…ほら」

シルナの指差す方に、開けっ放しの冷蔵庫のドアがあった。

マジかよ。全然気づかなかった。

つーか、冷蔵庫を開けっ放しにするなよ。

まぁ、開けっ放しにしてくれていたお陰で、何とかここに入れたんだけど。

冷蔵庫の閉め忘れ。冬場はともかく、夏場は洒落にならんから、気をつけような。

俺との大事な約束だ。

「あー、そうと気づいたら寒っ…」

冷蔵庫の中なんだから、寒いのは当然。

冷凍庫じゃなかったのは幸いだが、冷蔵庫でも寒いことに変わりはない。

長くここにいたら、体温が下がり過ぎて危険だな。

早いところ探してしまおう。

…と、思ったそのとき。

「…ん?…シルナ、あれ」

「え?」

俺は、冷蔵庫に保管されていた、ケース入りの卵の片隅に。

青い、小さな封筒らしきものを見つけた。
< 404 / 634 >

この作品をシェア

pagetop