神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
冷蔵庫の奥まで歩いて、卵の影から封筒を引っ張り出す。

封筒には、青い薔薇の模様が描かれていた。

「…シルナ…これって…」

もしかして…もしかするのでは?

「…!開けてみよう」

「あぁ」

俺は封筒を開け、中に入っていたものを取り出した。

封筒には、2枚のカードが入っていた。
 
…それは、二人分の招待状だった。

俺とシルナ、一枚ずつ。

アリスのお茶会に参加する為の招待状。

思わず、歓喜の声をあげそうになった。

…良かった。間に合った。

俺もシルナも、制限時間内に招待状を見つけたのだ。

…生きた心地しなかったなぁ…。

でも、無事に見つけることが出来たのだ。

これで、アリスのお茶会に行ける。

「はぁ…良かった…」

安堵のあまり、その場に座り込んで脱力しそうになったが。

そういうことは、冷蔵庫から出てやろう。

こんなところで座り込んだら、凍え死ぬっての。

「シルナ、冷蔵庫から出よう」

「うん…!良かったぁ…」

シルナも、この満面の笑みである。

命が助かったのだから、当然だな。

あとはこの招待状を持って、アリスのお茶会に臨むだけ。

他の皆も、同じく招待状を見つけられていれば良いのだが…。

…そう考えながら、冷蔵庫から出ようと、足を踏み出したとき。
 
「…ケケケッ」

悪趣味なチェシャ猫の笑い声が聞こえ。

同時に、ガン、と床に物か落ちる音がした。

「…?」

菜箸だ。

俺達が橋代わりに使った菜箸を、チェシャ猫が前脚で蹴っ飛ばして、床に落としたのだ。

…いや、もうあの橋は使わないから、別に落としても良いけど…。

あいつ、何やってんだ…?

チェシャ猫のムカつく笑い顔を見ながら、俺は首を傾げた。

何がやりたいのか知らんが、俺達はさっさとここから出…、

「?今の、何の音?」

厨房に、メイド服の女性が一人、戻ってきた。

「…やばっ…!」

「羽久、隠れて!」

俺とシルナは、すぐさまチーズの影に身を隠した。

菜箸が床に落ちた音を聞きつけて、ネズミ頭のメイドさんが戻ってきたのだ。

くそ、あのチェシャ猫、余計なことを…。

もう少しで脱出出来たのに…。

「…?菜箸…?何でこんなところに…」

メイドさんは、床に落ちた一本だけの菜箸を拾い上げた。

ごめんな、それ、俺達が無断使用した。

…更に。

「…あ、冷蔵庫開けっ放し…」

ネズミ頭のメイドさんは、ドアが開け放たれたままの冷蔵庫に気がついた。

…今気づくのか、それ。

何だか、途端に嫌な予感が…。

「全くもう…。誰が閉め忘れたのかしら…」

…そう、言いながら。

ネズミ頭のメイドさんは、冷蔵庫のドアを掴み。

…ばたん、と閉めた。

「…」

「…」

閉じられた冷蔵庫のドアの内側を、俺達はしばし、呆然と見つめていた。

「…ケケケッ」

チェシャ猫の嘲笑が、冷蔵庫の中まで聞こえてきた。

…なぁ。

…これってもしかして、俺達…超ピンチなのでは?
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