神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…とはいえ。

いくら俺達が、渾身の力を込めて、ドアを内側から体当りしても。

まず、びくともしないであろうことは、試すまでもない。

そんな方法で開くなら、苦労はしない。

当然だが、ぴっちりとしまったドアに、通り抜けられそうな隙間もない。

そもそも、冷蔵庫のドアが閉められたことによって、庫内灯が消えてしまい。

今、冷蔵庫の中は真っ暗だ。

これじゃあ、脱出に使えそうなものがないか、探し回ることも出来ない。

炎魔法で、かろうじて足元と、お互いの位置だけは分かっている状態。

周囲の様子が見えないと、余計に心許なくなってくるな…。

この状況で、俺達に出来ることは…。

「…魔法に頼るしかないね。こうなったら」

シルナは、冷静にそう言った。

…まぁ、そうだよな。

人の身でどうにか出来ることではないのだから、人智を超えた力でどうにかするしかない。

イーニシュフェルト魔導学院の教師を名乗るなら、魔法で事態を解決してみせろ。

…いずれにしても、他に方法はないしな。

あとは、魔法でどうやって、ここから脱出するかだが…。

普段なら、力押しでどうにかするところ。

しかし、テントウムシサイズの今の俺達は、貧弱な魔法しか使えない。

力押しには頼れないだろう。

そうなると、知恵を巡らせ、工夫を凝らしてこの場を突破…、

「…よし。ここは力押しで何とかしよう」

…とてもじゃないが、知略に優れたイーニシュフェルトの里出身で、

イーニシュフェルト魔導学院の学院長をも務める、ルーデュニア聖王国指折りの魔導師の台詞とは思えんな。

結局力押しかよ。

「時間をかけてはいられないからね。…既に寒くて震えてるし」

ご老人には辛い環境。

「気持ちは分かるが…。今の俺達が、力押しでどうにか出来るのか?」

「ただ闇雲に魔力をぶつけるだけじゃ、当然通らない…。でも、私の魔法なら…分身を大量に作って、本体の私が最大力の魔法を撃ち込んで、それを分身で反射、相乗することによって、本体が撃ち込める魔力の限界を遥かに越えて…」

…やべぇ。なんかぶつぶつ言ってる。

邪魔しない方が良さそうだ。

とにかく、この状況を何とかする為の策を講じていることは確かだ。

力押しとは言ったが、全くの無策で力押しする訳ではないようだ。

「…よし、やろう」

シルナはそう言って、杖を握り締めた。

…プランは決まったようだ。

「俺に何か出来ることは?」

「大丈夫。羽久には、もう充分助けてもらったよ。今度は私が助ける番だ」

「…シルナ…」

「絶対何とかしてみせる。…終わったら多分へばってるだろうから、肩貸してね」

悪戯っぽく、そう笑ってから。

「…よし、じゃあやろうか」

瞳に強い決意を宿し、杖を振った。

…これがテントウムシサイズじゃなかったら、さぞかし決まってただろうに。

まぁ、そこまで贅沢は言うまい。

シルナの頑張りに期待しよう。
< 407 / 634 >

この作品をシェア

pagetop