神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
アリスに、招待状を書いてもらう…。

「そんなことが出来るんですか、あなた」

「私も、アリスのお茶会には何度も参加したことがありますから。アリスとは顔見知りなんです」

「…ふーん…」

なんとも都合の良い設定ですね。

…でも、そうしてもらえるなら助かります。

招待状を直接、書いて送ってもらえるのなら。

何処に隠されているか分からない招待状を、虱潰しに探す手間は省ける。

どうやら、私が招待状を手に入れる最短ルートは…このハートの女王を助けることであるらしい。 

成程、「help me」とはそういう意味でしたか。

ハートの女王を助ければ、私も助けてもらえるから、と。

ハンプティ・ダンプティの指示に従うのは、癪に障るけど。

この際、文句は後回しにしましょう。

まずは、確実にお茶会に参加する資格を得るのが先。

従って。

「分かりました。招待状を書いてもらえるのなら、私はあなたの相談相手になりましょう」
 
「ほ、本当ですか?私を助けてくれるんですね?」

「可能な範囲で、ですが」

「…!ありがとうございます…!」

感極まるハートの女王。

良かったですね。

招待状を手に入れられるなら、私も努力するとしましょう。

「それじゃあ…早速、相談に乗ってもらえませんか?」

「それは構いませんが…。何の相談に乗れば良いんです?」

「…私の着る服を、選んで欲しいんです」

相変わらずの半べそ顔で、ハートの女王はそう頼んできた。

…着る服…?

非常にどうでも良い相談ですね。

「別に何を着ていても良いじゃないですか」

「そうは行かないんです…。今夜は城の外からお客様を呼んで、舞踏会が開かれる日なんです」

と、ハートの女王は説明した。

ほう、舞踏会。

私と違って、暇と時間を持て余している連中の多いこと。

「舞踏会に何を着ていけば良いのか分からなくて、それで困ってたんです…」

成程。

さっき、どうしましょうどうしましょうを連呼していたのは、これが理由ですか。

…下らない相談事でしたね。

しかし、招待状を書いてもらう為には。

どんなに下らない相談事だろうと、付き合ってやらなければならない。

はぁ。

「舞踏会に着ていく服…ですか。そのままの格好じゃ駄目なんですか?」

今、ハートの女王が着ているドレス。

派手な赤のハート模様で、いかにもけばけばしく、よく目立つドレスですが。

あはたはハートの女王なのだから、それくらいで丁度良いのでは?

と、思ったが。
 
「これは普段着だから、駄目なんです。舞踏会に着ていって良いのは、よそ行きのドレスだけですから…」

あなた、そんなに派手なドレスを着ておいて、それ普段着なんですか。

「ふーん…。…そんなに深刻に考えずとも、適当に…目についたドレスを着れば良いのでは?」

例えば、すぐ目に前にある、この緑のドレスとか。

ハートの女王っぽくはないけど。

「それが、なかなか思いつかないんです…」

…面倒くさっ。

こんなに服に囲まれてる癖に、着ていく服が見つからないなんて、意味が分かりませんね。
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