神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
要するに、この人。

病的なまでに…優柔不断、ということなのでしょうね。

そういう相手には、「○○はどう?」と相手の意見を尋ねるより。

「○○にしたら良いよ」と、こちらが考えて、提案してやった方が良い。

その方が選びやすいでしょう。

私は早速、手前にあった緑のドレスのハンガーを掴んだ。

「これにしたら良いじゃないですか」

「えっ…。で、でも…それも普段着で…」

これ、普段着だったんですか。

「では、こちらの黄色は?」

緑のドレスの横にかけられていた、黄色のドレスを手に取る。 

しかし。

「それも普段着です」

どれもこれも、普段着ばかり。

普段着だけで、一体何着持っているのか。

「よそ行きはどれです?」

「その、奥の一列にかけられているドレスが、全部よそ行きです」

これまた、随分多いですね。
 
こんなに種類があるから、迷うんです。

よそ行きなんて、所詮よそへ行くときしか着ないんだから。
 
精々、一着か二着あればそれで宜しい。
 
「では、こちらを」

私は、よそ行き用の青いドレスを手にした。

…しかし。

「そのドレスは…前の舞踏会で着たばかりですから」

「駄目なんですか?」

「二回も連続で、同じドレスを着ていくのは…ちょっと…」

女王の威厳に関わる、と?

「女王はあのドレスしか持ってないのか」と笑われるから?

全く下らない。

あなたが何を着ているかなんて、世の中の九割以上の人間にとって、どうでもいことでしょう。 

「では、こちらは?」

次に私は、その隣にあった白いドレスを手に取った。

しかし。 

「白は汚れが目立つから…」

「では、こちらの黒は」

「黒はお葬式に着る色であって…舞踏会に着ていく色じゃありません」

「なら、この水色は?」

「水色か…。あまり好きな色じゃないんですよねぇ」

…イラッ。

「このピンクは?」

「女王がピンクを着るのは子供っぽいから駄目だって、宰相が…」

「ならこちらの…赤なら良いのでは?」 

「そのドレスは、前に舞踏会で着たことがあるんです」

「着たことがあったら駄目なんですか」

「一度舞踏会に着ていったドレスは、二度と着てないんです。それはマナー違反で…」

そんなくそったれなマナー、ドブにでも捨ててしまえば良い。

「では、こちらの黄緑なら…」

「そのドレスは背中が開いてるから、女王に相応しくないって宰相が…」

「オレンジなら?」

「そのドレスはリボンがいっぱいついてるから、子供っぽくて女王に相応しくないって、宰相が…」

ちょっとその宰相とやら、ここに連れてきてもらえませんか。

一度張り倒したい。

人の着るものに、いちいちケチをつけて…。 

素っ裸で行くって言ってるんじゃないんだから、何を着ていても良いでしょうが。
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