神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「この濃い紫のドレスは?」

「そのドレスは、何だか野暮ったく見えるから、嫌いなんです」

「それならこちらの…薄紫のドレスなら良いのでは?」

「薄紫…今日はそんな気分じゃないなぁ」

宰相も宰相だけど、この女王も女王で、相当我儘。

あなたの気分など、知ったことですか。

内心、加速するイライラが止められなかったが。

それを何とか、必死に抑えた。招待状の為に。

しかし私は、元々我慢強いタイプではありません。

「あぁ、どうしましょう…。着ていく服が見つからない。私は今夜、どのドレスを着ていけば良いんでしょう?」

面倒臭いから、もう裸で行きなさい。

考えるのが面倒になってきた。

「…分かりました。では、あなたはこの…赤紫のドレスを着なさい」

これで最後です。ファイナルアンサーです。

私は、手近にあった赤紫のドレスのハンガーを掴んだ。

「え?でも…紫は今日の気分じゃなくて…」

「知ったことではありません。これを着なさい」

「それにそのドレスは、前にも着たことがあって…」

「知ったことではありません。これを着なさい」

「派手な色だからって、宰相にも駄目出しされて…」

「知ったことではありません。これを着なさい」

「…」

「これを着なさい。…良いですね?」

「…はい…」

宜しい。

最初からそうやって、素直に頷けば良いんです。

着ていく服を選ぶだけで、こんなに時間と労力を費やすなんて。

全く馬鹿げていて、イライラさせられますね。
< 415 / 634 >

この作品をシェア

pagetop