神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
ピンク色の空よりもびっくりした。

思わず悲鳴をあげそうになったのを、理性で堪えた。

…ウサギだ。

人型のウサギ。

人型ウサギが、二足歩行で、服を着て、人の言葉で話しかけてきた。

そ…そうだよね。

ここは、童話の世界…『不思議の国のアリス』の世界なのだから。

ましてや、僕がいるのは「三月ウサギの世界」なのだ。

ウサギが登場するのも、そのウサギが人の言葉を話すのも、何も不思議なことではない。

…まぁ、物凄くびっくりしたけど。

「あなたも、怪我をしてるんですか?」

白ウサギさんが、心配したような声で聞いた。

え、怪我?

「さぁ、こちらへ。すぐに手当てしますから」

「い、いや…僕は別に…何処も怪我なんてしてないけど…」

何せ、今しがたこの世界に来たばかり。

ピンピンしてる。

「良かった…。じゃあ、あなたは襲撃を逃れたんですね」

と、白ウサギさんが言った。

…襲撃…?

「それでも、ここはまだ危険です。さぁ、私と一緒に来てください。仲間のところに案内します」

な、仲間?

仲間って、まさかウサギ仲間?

…僕、人間なんだけど…混ざっても良いのだろうか…。

…しかし。

「さぁ、早くこちらに」

白ウサギさんは、嫌とは言わせないとばかりに僕を促した。

…仕方がない。

他に選択肢はなさそうだし…。ここは、白ウサギさんについていくとしよう。

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