神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
白ウサギさんについて、5分ほど原っぱを歩くと。

大勢の人…いや、人型ウサギ…が、集まっている場所に案内された。

僕が何より驚いたのは、大勢の人型ウサギが集まっていることではなかった。

「え…!ど、どうしたの、これ…!?」

僕は足を止め、愕然として、目の前に広がる光景を見つめた。

広場に集まるウサギ達の大半が、苦悶の呻き声をあげていた。

「う、うぅ…。痛い、痛い…」

「助けてくれ…。血が止まらないんだ…」

「足が。僕の足が…!!」

「お母さーん!お母さん、起きて!」

あちこちに血の跡をつけ、痛みのあまり呻き声をあげるその姿は、酷く凄惨で。

思わず、目を背けてしまいそうになった。

「な、何でこんなことに…!?」

「あなたも、見ていたんじゃないんですか?」

白ウサギさんが尋ねた。

見ていたって…何を…。

「いや…僕は…」

「…いえ、良いんです。無理に思い出さなくて」

え、いや。

あまりの凄惨な光景に見たせいで、記憶を喪失したと思われているのか。

本当に何も見ていないし、何も知らないんだけど…。

「…襲ってきたんですよ」

憎しみを込めた声で、白ウサギさんは言った。

「襲ってきた…?何が…?」

ウサギを襲う者…。

オオカミとか…狩人だろうか?

…しかし。

「それは…あの悪魔のような…」

「君達!こっちを手伝ってくれ!」

白ウサギさんが答えようとしたところに、割って入る声があった。

怪我をした子供ウサギを手当てしていた灰色ウサギが、僕達を呼んだ。

…どうやら、話は後にした方が良いようだ。

「分かった、今行く!」

白ウサギさんは、仲間の灰色ウサギさんに返事をした後。

「申し訳ないが、君も彼らの手当てを手伝ってくれないか?」

と、僕にそう頼んできた。

…お安い御用というものだ。

空に描かれた、「forgive me」の文字。

アリスのお茶会の招待状。

未だ行方の分からない、「三月ウサギ」の正体。

聞きたいことや確かめたいことは、山のようにあるが。

しかし、今は目の前に、怪我をした人がいる。

…いや、人じゃなくて、ウサギだけど。

人かウサギかなんて、どうでも良いよね。

怪我をした者がいるなら、誰であっても助ける。

それが、僕の信条だ。

「任せてください。手伝います」

「済まない。宜しく頼む」

僕は白ウサギさんと共に、怪我をしたウサギさんに駆け寄った。
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