神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…それにしても。

各地で、このような残虐な行為が行われているなんて…。

被害に遭った人々を助けて回るという、その行為は素晴らしいと思う。

…でも、それは根本的な解決にはならない。

事が起きる前に、虐殺行為を止めさえすれば…誰も傷つかずに済む。

怖いのは分かるけど、その悪魔…という人?を何とかすれば。

この地域のウサギ達は、平和を脅かされる恐怖に晒されることなく、平穏に生きられる…よね?

「…えぇと、ハイエナとか…あるいは、山賊か何か?その悪魔っていうのは…」

「…そんな生易しいものではありません」

と、白ウサギさんは軽く頭を振り、嘆くように言った。

生易しい…って…。

山賊も充分怖いと思うけど…。

僕もかつて、この白ウサギさん達のように、一人で世界各地を巡り。

病気の人や怪我人を、回復魔法で治すという旅をしていた。

中には、山賊一味に村が襲撃されて、村人の大勢が亡くなる…という、非常に悲しい事件に巻き込まれたこともある。

動物に襲われた、というケースもあった。

そういう経験があるから、この村で起きた虐殺も…そうじゃないかと思ったんだけど。

違う…のか。

本当に…その悪魔っていうのは何…。

「頭から爪先まで、どっぷりと血に浸かってるんです…あの男は」

憎々しげに呟く白ウサギさん。

…あの、男…?

…え、まさか。

「一人…?襲撃してきたのは、たった一人なの?」

「えぇ…一人です。奴がこの村に侵入してきて、一人で村人を虐殺したのです…」

「…そんな…」

たった一人で、これだけの規模の虐殺を…。

てっきり、集団で襲われたものと思っていたのに。

その一人というのは、余程残虐な…そして、強力な力を持つ人物であるらしい。

一体どんな人なんだろう…。会ってみたいけれど、あまりにも危険そうだ。
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