神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
しかし。

「『殺戮の堕天使』の居場所が分かったぞ!」

捜索を始めてから、僅か三日後。

不自然なまでに早く、標的の居場所が見つかった。

「本当に!?奴は何処に?」

「ここから南に行ったところにある、『タルトの森』に潜伏しているそうだ」

…タルトの森。

『不思議の国のアリス』らしくて、美味しそうな名前の森だけど。

今は、それどころじゃないよね。

「よし、そうと分かれば、すぐに行こう!」

「ちょ…ちょっと待って」

すぐにでも出陣せんとするウサギさん達を、僕は必死に止めた。

「何故止めるんだ。僕達には、『殺戮の堕天使』を止める使命があるんだ!」

…それは分かるけど。

でも、破滅に向かって飛び込んでいこうとする彼らを、止めない訳にはいかなかった。

「駄目だよ、いくらなんでも危険過ぎる」

『殺戮の堕天使』に挑むのが危険…なのは言うまでもないが。

それだけではない。

『殺戮の堕天使』を倒そうとするウサギさん達の武器は、安っぽい銀色の剣や、玩具みたいな槍だけ。

こんな貧弱な装備で、魔法を使う『殺戮の堕天使』を倒せるはずがない。

いくら数の優位があるとはいえ。

僕の知る『殺戮の堕天使』は…慣れない武器を持った烏合の衆が、束になって勝てる相手じゃないのだ。

しかも…気になるのはそれだけではない。

僕達が『殺戮の堕天使』を探し始めてから…まだ三日しか経っていない。

いくらなんでも早過ぎる。

僕でさえ…かつて…なかなか尻尾を出さない「彼」を探すのに、酷く苦労したのだ。

『殺戮の堕天使』が、僕の知る人物ではないのだとしても…それにしたって、見つけるのが早過ぎる。

何か裏があると考えるのが妥当だ。

…きっと「彼」は…『殺戮の堕天使』は、自分の居場所を嗅ぎ回られていることに気づいたのだろう。

そして、煙たい僕達を一掃する為に…タルトの森で待ち伏せしている。

…それくらいのことはすると思う。「彼」なら。

わざと自分の居場所を漏らし、僕達が攻めてくるのを迎え撃つ為に待っているのだ。

もしそうなら、僕達がタルトの森に攻め込むのは、あまりに危険だ。

「彼」の張った罠に…自らかかりに行くようなもの。

ましてや、こんな軽装備で。

『殺戮の堕天使』に対抗する、何らかの策がある訳でもないのに。

自殺行為だ。

せめて、もう少し待って…「彼」の出方を伺うべきだ。

…しかし。

「何を言うんだ。ここで手をこまねいていれば、奴に逃げられてしまうじゃないか」

槍を手にした灰色ウサギさんは、憮然としてそう言った。

…あぁ…。

…それこそ、『殺戮の堕天使』の思う壺なんだよ。
< 441 / 634 >

この作品をシェア

pagetop