神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「やめた方が良い。今、ここで『殺戮の堕天使』と敵対するのは…!」

僕はウサギさん達を止めようと、必死に説得した。

…しかし、彼らにはどうしても届かなかった。

「…そこまで言うなら、君はついてこなくて良い」

「…!」

ウサギさん達は、引き留める僕を振り払うように言った。

「僕達は、自分のやるべきことをやるだけだ。『殺戮の堕天使』を討つ。奴の居場所がはっきりした今がチャンスなんだ」

「そうだ。この機を逃したら、また逃げられて…そしてまた、多くの者が殺されてしまう」

「そうなる前に、奴を倒すんだ。今しかない…!」

…あぁ。

駄目なのか。やっぱり…僕には止められないのか。

「…分かった、よ」

危険だからって…僕だけ逃げ出すようなことはしないよ。

僕は力になれないかもしれないけど…でも、せめて…見届けるくらいはしなければ。

それに…『殺戮の堕天使』が何者なのか…僕は確かめたかった。

確かめる義務があると思った。

…その時だった。

「…ケケケッ」

下品な笑い声が聞こえて、僕はドキッとして振り返った。

そこにいたのは。

「え…。チェシャ猫…?」

『不思議の国のアリス』の象徴とも言えるピンク色の猫が、木の枝からこちらを見下ろし。

にやにやと、人の悪そうな笑みを浮かべていた。

び、びっくりした…。どうしてこんなところに…?

血気に逸ったウサギさん達は、チェシャ猫の存在など全く気にも留めていない。

と言うか…僕にしか見えてない…?

「…君、どうしてここに…」

チェシャ猫に話が通じるのかは分からないけど。

この世界について、『殺戮の堕天使』について、少しでも何か情報を持っているかもしれない。

そう思って、チェシャ猫に質問しようとしたが。

「…あ…」

次に振り返ったとき、そこにはもうチェシャ猫の姿はなかった。
 
何とも言えない、不気味さと不安でいっぱいだった。

周囲を探したいと思ったが、そんなことをしている場合ではなかった。

遅れる訳にはいかない。ウサギさん達の後をついて、『殺戮の堕天使』を先に探さなければならなかった。

後ろ髪を引かれる思いで、僕はその場を立ち去った。
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