神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
僕はウサギさん達について、タルトの森に向かった。

こんなに殺伐とした雰囲気には似合わず、タルトの森は、非常にメルヘンな森だった。

…木に実っているのは、果物の代わりにタルトだった。

いちごタルトや、りんごのタルト…あっちはチョコのタルトだ。

学院長先生が来たら、涎を垂らすだろうな。

…でも、このメルヘンな森に、浮き足立つ気分にはなれなかった。

ピクニックに来たら、こんなに楽しい場所はないだろうに。

今の僕達は、ピクニックとは程遠い目的の為に、ここにいた。

ウサギさん達は、恐れることなくずんずんと歩みを進めていたが。

僕はと言うと、今にも『殺戮の堕天使』の罠が待ち受けているのではないかと…気が気ではなかった。

…すると。

「…!いたぞ!」

先頭を歩いていた灰色ウサギさんが、大きな声をあげた。

僕はハッとして、灰色ウサギさんの指差す先を見た。

人影のようなものが、タルトの木の間を通り抜けるのが見えた。

あれが、『殺戮の堕天使』?

「追え!逃がすな!」

「捕まえるんだ!」

「あっ…!ちょ、待って…!」

人影を見つけるなり、ウサギさん達は槍と剣を持って突貫した。

僕が止める暇もなかった。

置いていかれないよう、僕はウサギさん達を後ろから追いかけた。

しかし。

『殺戮の堕天使』らしき人影は、立ち止まることなく、逃げ続けていた。

「待て!止まれ!」

「逃げるのか、卑怯者!」

逃げる人影を追って、ウサギさん達は闇雲に追いかけた。

気がつけば、タルトの森の奥深くまで来てしまっていた。

ここまで来ても、『殺戮の堕天使』は逃げるばかり。

…不味い気がする。

嫌な予感がする。

「彼」が逃げるのは、僕達の攻撃から逃れようとしているんじゃなくて…。

「待って、皆。止まって…!」

必死に呼びかけたが、ようやく目前にまで追い詰めた『殺戮の堕天使』がそこにいるのに、足を止めるウサギさんは一人も…いや、一匹もいなかった。

…やがて。

茂みを抜けた先、見晴らしの良い原っぱに辿り着き。

「ようやく追い詰めたぞ!観念しろ!」

「…」

そこに、『殺戮の堕天使』が、足を止めて僕達を待ち受けていた。
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