神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…この人が、『殺戮の堕天使』…。

…いや、人ではなかった。

ウサギさんだった。

イケメンカリスマ教師を自称するナジュ君とは、似ても似つかない黒ウサギ。

このウサギさんって…もしかして…この世界を作っている…。

「今日こそ、お前を成敗してやる!」

「死んでいった者の無念を思い知れ!」

灰色ウサギさん達が叫んでも、『殺戮の堕天使』は何も答えない。

…それどころか。

挑発するように、指で手招きした。

怪しいことこの上ない仕草に、僕は思わず警戒を強めたが。

ウサギさん達は、馬鹿にされていると思ったのだろう。

「っ…!そのしたり顔も、これまでだ!」

『殺戮の堕天使』の狙い通り、ウサギさん達は武器を手に、真っ直ぐ突っ込んでいった。

「まっ…、ちょっと待って…!」

止める暇もなかった。

次々と、原っぱに突っ込んでいくウサギさん達は。

しかし、『殺戮の堕天使』のもとに辿り着くことは出来なかった。

先頭の灰色ウサギさんが、『殺戮の堕天使』に迫ったとき。

ウサギさん達の足元が、がらがらと崩れた。

…!?

「うわぁぁぁ!?」

「な、何だ!?」

…落とし穴だ、と思った。

案の定、『殺戮の堕天使』は罠を仕掛け、ウサギさん達をこの罠に誘導したのだ。

頭に血が上っていたウサギさん達は、まんまと誘き出され、まんまと罠に嵌ってしまった。

この落とし穴に。

…しかも、これはただの落とし穴ではなかった。

「…っ!!」

…落とし穴の中には、先の尖った槍が、何本も連なっていた。

その槍が、落とし穴に落ちたウサギさん達の、柔らかな身体を串刺しにしていた。

「わ、罠だ!下がれ、さが…うわぁぁ!」

「助け…助けてくれぇぇ!」

原っぱは、あっという間に阿鼻叫喚の様相を呈していた。

罠だと気づいても、引き返すことは出来なかった。

勢い良く飛び出したウサギさん達は、為す術もなく、落とし穴に吸い込まれていった。

崩れた地面がウサギさん達を呑み込み、その下で待ち受ける槍が、ぐさぐさとウサギさんを串刺しにした。

辺りに立ち込める悲鳴と、血の匂い。

地獄のような光景が広がっているというのに。

『殺戮の堕天使』は満足そうに、落とし穴を見下ろしていた。

自分の仕掛けた罠に、まんまとウサギさん達が嵌ったことが嬉しいのだろう。

…。

ウサギさん達は、皆落とし穴に落ち。

生き残っているのは、ただ一人飛び出さなかった、僕だけだった。

…あっという間に一人ぼっちになったね。

…また。
< 444 / 634 >

この作品をシェア

pagetop