神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…猫のことも気になるけど、今は目の前のウサギに集中することにする。

白ウサギは、ロールケーキベッドの下からこちらの様子を窺っていた。

僕はベッドを一刀両断し、その下に隠れている白ウサギを取っ捕まえようとしたが。

やはり、白ウサギはすんでのところで逃げる。

『八千歳』が糸を展開して包囲しても、やはりすり抜けるようにして逃げる。

…おかしい。

いくらなんでも、これは出来過ぎだ。

光の速さで逃げるならともかく、あのウサギの細い脚で、あんな風に動けるはずがない。

つまり、これは…今僕達がどれだけ追いかけても無駄で。

これまでの童話シリーズで、しばしばそうだったように。

何か特定の条件を満たすことで、前に進める…というシステムなんじゃないだろうか。

もしかして、さっき川に浮かび上がっていた「touch me」も、そういう意味だったりするのかな?

分からないが、今ここで闇雲に追いかけても…白ウサギを捕まえることは出来なさそうだ。

…すると。

「…あ!逃げた…!」

白ウサギは、僕達を散々、弄べるだけ弄んで。

たたたっ、と窓から飛び出し、逃げていった。

…この家にもう用はない、と?

追うべきだろうか。僕達は、まだ何の条件も満たしていないけど。

「…どうしよう、『八千歳』」

僕は、傍らの相棒に意見を求めた。

「そーだな…。望みは薄そうだけど…一応、追いかけた方が良いんじゃない?」

「分かった」

見失ったら、また探すのに厄介だしね。

そもそも、あのウサギを追いかけることは正解なのだろうか?

「白ウサギの世界」だから、何となく白ウサギを追いかけてるけど。

まぁ良い。捕まえてみれば分かることだ。

家の外に逃げた白ウサギを追って、僕達も窓から外に出よう…と。

窓枠に足をかけた、そのときだった。




「こ…こりゃぁぁぁっ!何をしとるんじゃ!」

背後からいきなり怒鳴られて、ちょっとびっくりした。

…何事?

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