神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
振り向いてみると。

キャンディの杖を持ったおじいさんが、カンカンの様子で僕達を怒鳴っていた。

…誰?

この世界の住人?

この家の持ち主だろうか。

「お前達!勝手にうちに上がり込んで…ドアや窓を壊したのは、お前達の仕業か!?」

ドア?

…あぁ、うん。壊したね。

「うん」

「本棚は?シャンデリアを壊したのもお前達だな!?」

え?壊したっけ?

おじいさんの背後をよく見ると、クッキーの本棚は砕け、飴細工のシャンデリアは粉々になっていた。

…儚いね、お菓子の家具。

耐久性が全くないんだもん。

こんな家には住めないよ。やっぱり。

しかし、こんな家に住んでいるらしいおじいさんは。
 
「勝手に上がり込んで、勝手にうちのものを壊すなんて…!」

家の中に土足で踏み入られ、更には家の中のものを壊されたことに、激怒していた。

うん、でも仕方ないよ。

ウサギを追いかけてたんだから。他にどうしようも出来なかった。

それより僕達、ウサギ追いかけてるから…ここ、出てっても良いかな。

「けしからん小僧共じゃ!親の顔が見てみたいわ!」

「あ、そう…」

僕も見たいなぁ。今何処にいるんだろ。

生きてるのかな?望みは薄そうだけど。

「それに何じゃ!人の家に勝手に入ってきておいて、悪びれもせず!」

…そう言われても…。

「…『八千歳』。なんか面倒臭いことになっちゃったね」

「全くだね。…どーする?こいつ、黙らせる?」

両手で糸を手繰りながら、『八千歳』が言った。

ここでこんな風に絡まれて、時間を浪費するのは本意ではない。

だったら、いっそ『八千歳』の糸で、「黙って」もらった方が良いのかもしれないけど…。

「…もうちょっと待ってみない?もしかしたら、これも『白ウサギの世界』の筋書きなのかも」

「あー…。そっか…」

これがこの世界の正しい「手順」なのだとしたら、僕達の手で変えるのは良くないかもしれない。

いずれにせよ、おじいさん一人くらい、その気になればどうとでも出来る。

それより今は、少しでもお茶会の招待状に近付くヒントを探すべきだろう。

逃げた白ウサギの行方は、気になるけどね。

「何をひそひそ話しておるんじゃ!年長者の話は真面目に聞かんか!」

と、怒鳴るおじいさん。

自分でそういうことを言う人って、あまり好ましくないと思う。

まぁ、良いか。

「分かったよ。聞くよ」

ここは、大人しく説教を受け入れ…。

真面目に聞いている…振りをしよう。
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