神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…結果。

僕と『八千歳』は、家の修繕に駆り出される羽目になった。

割れたチョコレートは、溶かしたチョコレートで繋ぎ合わせ。

砕けたビスケットやクッキーは、新しいものに取り替え。

室内でドンパチやったせいで、薄くなった生クリームの壁は、新たに上から生クリームを塗り直し。

粉々になった飴細工のシャンデリアは、予備のシャンデリアをつけ直した。

成程、こうやって直すのか…。

溶かしたチョコレートを、セメント代わりにぺたぺたくっつけながら。

僕は、こっそりチョコレートを舐めてみた。

うん。

どう見てもミルクチョコレートなのに、味は全く違う。

バニラアイスの味がする。

口の中が、凄いこう…違和感を感じている。

これを舐めたら、学院長もびっくりするだろうなぁ。

「私の思ってる味と違う!」って。

…一方。

「もぐもぐ」

『八千歳』もまた、ロールケーキベッドを修繕しながら、こっそり端っこを千切って食べていた。

言うまでもないけど、バレないようにね。

「『八千歳』、それどんな味?」

「うーん。この間学院長せんせーが食べさせてくれた、いちごムースの味がする」

それはまた、摩訶不思議だね。

いちごムース味のロールケーキなんて、初めて見た。

「こっちの…シュークリームの枕なんて、ブルーベリーみたいな味がするよ」

「不思議だね。…いや、味以前に、シュークリームの枕っていうのはどうかと思うけど」

「ふかふかしてそうだけど、頭乗っけたら、クリームはみ出そうだよねー」

横になる度に、ぶちゅって音がしそう。

僕は嫌だな。やっぱり枕は、イグサの枕に勝るものはない。

そして、このクレープ生地の掛け布団も。

薄っぺらくて、何の防寒具にもならなさそうだけど。

試しに食べてみたら、こちらはチョコレートの味がした。

…やっぱり不思議だ。

何もかもちぐはぐ。

「さっきの白ウサギ、何処に行ったのかな…。まだ近くにいるかな?」

「さぁねー。家の外で待機してくれてたら、有り難いんだけどなー」

さて、そう都合良く行くかどうか…。

…と、思っていたら。

「お前達!無駄話をしてないで、キリキリ働け!」

様子を見に来た家主のおじいさんから、叱咤が飛んだ。

おっと、危ない。

摘み食いした部分、ちゃんと隠しておかないと。

「はいはい、働く働く」

「今日中に全部直すんじゃぞ!」

「はいはい」

「返事は一回じゃ!」

「…はーい…」

『八千歳』は気のない返事をして、家の修復作業に戻った。

…今日中に…か。

…しかし、今何時なんだろう?

僕は、ちらりと窓の外を見た。

ここに来たときから、太陽の位置が全く変わっていないんだけど。

この世界って、時間の概念はあるのだろうか?
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