神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
修復作業は、三時間もあれば終了した。

僕達がこの世界に来てから、もう何時間経っただろう。

相変わらず、太陽の位置は変わっていない。

外が暗くなる様子もない。

この世界に、朝昼夕の概念はあるのだろうか。

「うむ。よくやった」

修復を済ませた家の中を、ぐるりと見渡し。

家主のおじいさんも、この納得の表情。

こっそり摘み食いしたのは、未だバレていないようだ。

「これで用事は済んだよね?俺達、出てっても良い?」

「あぁ、良いじゃろう」

ようやくお許しが出た。

長かったなぁ。

「じゃあ、僕達はこれで…」

「あぁ、お前達、ちょっと待ちなさい」

「?」

まだ、何か用?

お菓子の家のおじいさんは、薄い紙に包んだドーナツを持ってきた。

「お弁当代わりに、これを持っていきなさい」

頑固爺だと思ってたけど、意外と良い人だった。

まさかお土産を持たせてくれるとは。

「何処に行くのかは知らんが、道中気をつけてな」

その優しさ、もう少し早く見せて欲しかった。

なら、ついでに。

「おじいさん、一つ聞いても良い?」

「何じゃ?」

「僕達、白ウサギを探してるんだけど…何処にいるのか知らない?」

「白ウサギ?あぁ…あの気まぐれな白ウサギか」

知ってるんだ。

もっと早く聞けば良かった。

「神出鬼没じゃよ、あの白ウサギは。何処にいるのか、はっきりとは分からんが…」

「…が?」

「この先にある『ミルフィーユの丘』に、白ウサギの巣があると聞いたことがある。白ウサギを探してるなら、行ってみると良い」

…「ミルフィーユの丘」…。

…また美味しそうな場所だね。

他にヒントもないし、じゃあそこに行ってみようか。

「じゃが、一つ注意しておくんじゃよ」

「?何を?」

「『ミルフィーユの丘』は、公爵夫人の領地の中にある。公爵夫人の領地で滅多なことをしたら、手打ちにされてしまうからの」

…へぇ。

公爵夫人っていうのが、誰なのかは知らないけど…。

どうやら、権力を持った人であるらしい。

「分かった。気をつけるよ」

「うむ」

僕と『八千歳』は、お弁当代わりのドーナツを手に。

白ウサギを探して、お菓子の家を後にした。

やれやれ。遅々として進まない招待状探しである。
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