神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
廊下の喧騒に比べ、武器庫の中は死んだように静まり返っていた。

…誰もいないようだ。

あるのは、大量の銃や弾倉や、小型の小さな爆弾っぽい物体ばかり。

いかにも、非合法組織の武器庫って感じだな…。

危なそうだけど、でもここにある全ての武器を総動員させたとしても、僕を殺すことは出来ない。

僕は無警戒に、一歩を踏み出した。

そのとき。

「…?」

視界の隅に、きらっ、と光るものが見えた。

顔を上げると、武器庫の四隅に、監視カメラの様なものが仕掛けられているのが見えた。

その監視カメラが光ったのだ。

え?

あれ、ただの監視カメラじゃな、

「…え」

プスッ、と可愛い音がして。

監視カメラ…らしいものから射出された、糸のように細いレーザー光線が。

僕の左胸の辺り…丁度心臓の位置を、真っ直ぐ貫いていた。

…。

…ちょっとびっくりした。

直後に、心臓に激痛が走る。

いたたたた…。

思わず胸を抑え、その場に膝をつく。

…死んだな、これ。普通の人間なら死んでる。

更に。

「今だ!畳み掛けろ!」

このときを待っていたかのように、駆けつけた『M.T.S社』の構成員が、わらわらと僕を取り囲み。

ダダダダッ、とマシンガンを連射。

たった一人、しかも手負いの人間に向かってここまでするとは。

オーバーキルも良いところである。

そういうのリンチって言うんですよ、リンチって。

全く、マナーのなってない連中…。

「よし…!仕留めたぞ!」

「はは、ざまぁみろ!」

その場に蹲った僕を見て、嬉しそうな声をあげた敵構成員は。

恐れ知らずにも僕に近寄り、あろうことかドカッ、と蹴っ飛ばしてきた。

「死神の弟子とやらも、『あの武器』を前にすればこの程度か。ふん、他愛ない…」

…「あの武器」、か。

それはつまり…さっきの、レーザー光線のことか。

成程。あれが、秘密兵器の正体だったらしい。

なかなか画期的な、良い武器だと思いますよ。

僕でさえ、不意打ちで心臓を射抜かれてしまった。

情熱的な出会い、ってね。

いやはや、あんなものを作り出すとは…。

魔導化学のみならず、人間の科学技術の発展は、目覚ましいものがあるな。

非魔導師だからといって舐めてちゃ、痛い目を見る…。

と、いうのが今日の教訓ですね。

…まぁ、それも。




僕が普通の人間だったら、の話ですが。

生憎…僕は普通ではないんでね。
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