神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
XV
――――――…青い光に包まれ、気がついたとき。

目の前に、トランプの兵隊がいた。

…おぉ。

さっきまで冷蔵庫の中だったが。

今度は青いペンキ塗りの薔薇が植えられた、庭のような場所に連れてこられていた。

相変わらず、ここは『不思議の国のアリス』の世界のようだ。

「シルナ…大丈夫か?」

「…何とかね…」

かろうじて答えはしたものの、さすがのシルナも、疲れた様子だった。

冷蔵庫の扉をぶち破る為に消費してしまった魔力が、未だに戻っていないのだ。

畜生。不親切だな。

「ティーセットの世界」から戻ってきたんだから、魔力くらい自動で回復してくれよ。

アリスのお茶会はこれからなのだ。

この後、何かしらのドンパチが起こらないとも限らない。

魔力の大量消費で疲弊したシルナを、戦力に数える訳にはいかない。

…いざとなったら、俺が何とかしなくては。

先程シルナに助けてもらった分も、俺が働く。

…すると。

「お茶会の会場はここです。招待状はお持ちですか?」

トランプの兵隊に、招待状の提示を促された。

…いよいよ、ってところか。

「…あぁ、招待状なら、ここに。二人分」

「拝見致します」

トランプ兵に招待状を見せると、奴は満足そうにこくりと頷いた。

「確認しました。アリスのお茶会にようこそ。あなた方を歓迎致します」

…あっそ。

俺としては、お茶会なんてどうでも良いから、早く帰りたいよ。

「この薔薇のアーチを潜って、真っ直ぐお進みください。席は自由ですよ。好きなところに座って、主賓のアリスが来るまで待っていてください」

「…どーも」

どうやら、合格したようだな。ひとまず安心か。

つーか、アリスの奴まだ来てないのかよ。

客人を待たせる主賓があるか?

…まぁ良い。そんなことはどうでも。

それより、俺が気になるのは…。

「…他の奴ら、もう来てるかな」

俺とシルナ以外の仲間が、無事に招待状を手に入れ、お茶会の会場に来ているかどうか。

これが心配だった。

彼らを信じている。…信じている、けど。

でも…万が一ということがあったら。

未だに彼らは、それぞれの世界に閉じ込められているのではないだろうか。

これについては、穏やかではいられない。

いくら俺とシルナが無事でも、他の皆が無事じゃなかったら、何の意味もないのだ。
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