神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
――――――…信じられない光景を見た。
突如として、ナジュの魔力が「変異」した。
それはさながら、俺が他の人格に「入れ替わる」ときと同じ。
肉体はそのままに、中身だけ別の人間に変わったような…。
…いや、肉体はそのままではない。
ナジュの魔力が変異すると同時に、肉体にも変化が現れていた。
じわじわと再生していた左腕が、いきなりずるっ、と生えた。
一瞬にして、再生速度が尋常ではなく加速したのだ。
それだけではない。
ナジュの両手の爪が、猛禽類のように伸びて、鋭く尖った。
靴が弾け飛び、剥き出しになった裸足の足の爪も、両手を同様、鋭い爪が伸びていた。
華奢な身体は、あっという間に筋肉質に変わり。
ナジュの黒髪が、肩くらいまで伸びた。
息は荒く、瞳孔が広がり、握り締めた拳から血が滲んでいた。
その姿は、まるで…。
「…ナジュ…お前、その姿は…」
「…ふーっ…ふーっ…」
ナジュは俺の問いかけには答えず、息を荒くして、敵の巨大アリスを睨みつけていた。
今ナジュが纏っているこの魔力、ナジュのものではない。
そして、この姿も…ナジュのものじゃない。
じゃあ誰なのか。
ナジュの中にいる、魔物の名前を思い出したとき。
獣の力を纏ったナジュは、地面を蹴って飛んだ。
その速度は、令月にも勝っていた。
巨大アリスとは、凄まじいまでの体格差があるはずなのに。
謎の力を解放したナジュは、渾身のパンチをアリスの腹に叩き込んだ。
魔法道具の産物とはいえ、女性の腹部を、容赦なく殴るとは。
「ぐぇっ…」
ベコッ、と歪な音がして、アリスは身体をくの字に曲げた。
…効いてる。
更に、ナジュの攻撃は腹パンだけに留まらなかった。
顔面を拳で殴りつけ、アリスの脳天に豪快な踵落としを食らわせた。
魔導師とは思えない、派手な肉弾戦だった。
力任せにも程がある。
しかし、知略もクソもないその攻撃は、確かにアリスに効いていた。
巨大アリスは口から胃液を吐き、よろよろとよろめいて、反撃すら出来なかった。
さっきまで、ろくに攻撃が通らなかったのに。
こんな力任せな攻撃でも、アリスに通っているのだ。
「何なんだ…この、力は…」
俺は、思わず呆然と呟いた。
見た目もそうだが、魔力もナジュとは違う、別人のものだ。
目の前で戦っている人物が、ナジュでないことは確かだった。
あいつがこんな力を使えるなんて、聞いてないぞ。
あれは誰の力なんだ…?
「…あれが…『冥界の女王』か…」
「…!」
いちごソースにまみれたシルナが、ナジュを見つめながら呟いた。
『冥界の女王』。
やはり、そうなのか…。
突如として、ナジュの魔力が「変異」した。
それはさながら、俺が他の人格に「入れ替わる」ときと同じ。
肉体はそのままに、中身だけ別の人間に変わったような…。
…いや、肉体はそのままではない。
ナジュの魔力が変異すると同時に、肉体にも変化が現れていた。
じわじわと再生していた左腕が、いきなりずるっ、と生えた。
一瞬にして、再生速度が尋常ではなく加速したのだ。
それだけではない。
ナジュの両手の爪が、猛禽類のように伸びて、鋭く尖った。
靴が弾け飛び、剥き出しになった裸足の足の爪も、両手を同様、鋭い爪が伸びていた。
華奢な身体は、あっという間に筋肉質に変わり。
ナジュの黒髪が、肩くらいまで伸びた。
息は荒く、瞳孔が広がり、握り締めた拳から血が滲んでいた。
その姿は、まるで…。
「…ナジュ…お前、その姿は…」
「…ふーっ…ふーっ…」
ナジュは俺の問いかけには答えず、息を荒くして、敵の巨大アリスを睨みつけていた。
今ナジュが纏っているこの魔力、ナジュのものではない。
そして、この姿も…ナジュのものじゃない。
じゃあ誰なのか。
ナジュの中にいる、魔物の名前を思い出したとき。
獣の力を纏ったナジュは、地面を蹴って飛んだ。
その速度は、令月にも勝っていた。
巨大アリスとは、凄まじいまでの体格差があるはずなのに。
謎の力を解放したナジュは、渾身のパンチをアリスの腹に叩き込んだ。
魔法道具の産物とはいえ、女性の腹部を、容赦なく殴るとは。
「ぐぇっ…」
ベコッ、と歪な音がして、アリスは身体をくの字に曲げた。
…効いてる。
更に、ナジュの攻撃は腹パンだけに留まらなかった。
顔面を拳で殴りつけ、アリスの脳天に豪快な踵落としを食らわせた。
魔導師とは思えない、派手な肉弾戦だった。
力任せにも程がある。
しかし、知略もクソもないその攻撃は、確かにアリスに効いていた。
巨大アリスは口から胃液を吐き、よろよろとよろめいて、反撃すら出来なかった。
さっきまで、ろくに攻撃が通らなかったのに。
こんな力任せな攻撃でも、アリスに通っているのだ。
「何なんだ…この、力は…」
俺は、思わず呆然と呟いた。
見た目もそうだが、魔力もナジュとは違う、別人のものだ。
目の前で戦っている人物が、ナジュでないことは確かだった。
あいつがこんな力を使えるなんて、聞いてないぞ。
あれは誰の力なんだ…?
「…あれが…『冥界の女王』か…」
「…!」
いちごソースにまみれたシルナが、ナジュを見つめながら呟いた。
『冥界の女王』。
やはり、そうなのか…。