神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
許可なく、イーニシュフェルト魔導学院に不法侵入しておいて…。

許さぬ、とはどういう了見だ。

許さんのはこっちだ。

「許さぬ…許さぬ…」

…。

「…許さぬ…」

「…それしか言えねぇのかよ」

…壊れた玩具か、あんたは。

勝手に入り込んで、文句を垂れるとは良い度胸だな。

「正面切って土足で踏み込んできたなら、せめて名前くらい名乗ったらどうだ?」

生憎こちらは、お宅がどなた様かも分からないんでね。

来客の予定もないと来たら、俺にはお前が何者なのか判別する術がない。

「見ての通り…今は取り込み中なんだ。火急の用事でないなら出直して…」

「…許さぬ…」

…またそれかよ。

いい加減、他に何か言ったらどうだ?

こいつが何を、こうも強硬に許さない許さないを連呼しているのか知らないが。

だが、その一言で…たった一言で…シルナは青い顔をしていた。

シルナをこれほどまでに震え上がらせることの出来る人物は、ルーデュニア聖王国広しと言えども、ごく限られた人間だ。

…それって、もしかして。

シルナの、むかし、

「ゆ、許さぬ。ゆ、ゆ、許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ」

「…!?」

唐突に、本当に壊れた玩具のように、白いローブ姿のジジィが喚き始めた。

…何だ…こいつ。

思わずゾッとしてしまった。

そのとき、俺は気がついた。

このジジィの…目。

死んだ魚の目というのは、こういう目のことを言うのだろう。

まるで生気の宿っていない…虚ろな目。

こいつ…本当に、何者なんだ。

これじゃあまるで、幽霊、

「…随分気味の悪い来客のようですが、私の目の黒いうちは、学院に不法侵入する不届き者は残らず成敗してくれます」

得体の知れない敵が、目の前に現れたにも関わらず。

我らがイーニシュフェルト魔導学院の鬼教官殿は、全く怯むことなく杖を向けた。

お前…もうちょっと、怖がるとか怯えるとか、せめて警戒するとかはないのか。

問答無用かよ…。

「名乗る気がないなら仕方ありません。一度黒焦げになったら…少しは喋る気になるでしょう」

ちょ、おま…それはいくらなんでも、喧嘩っ早いのでは。

いや、でも、相手が敵なら…イレースの言う通り、さっさと成敗した方が良いか。

生徒に危害が及ぶようなことになったら、取り返しがつかな、

「…貴様の裏切り、断じて許さぬぞ。シルナ・エインリー」

「…」

…幽霊疑惑が、一転。

めちゃくちゃ普通に喋り出して、面食らってしまった。
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