神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「馬鹿、お前は喋るな」

ナジュは未だに、変身の「反動」に苦しんでいた。

いつになったら収まるんだ、それは。

いや、今はそれより。

「身体を休めろ。ナジュも…シルナと天音と、令月もだ」

怪我をしてる奴全員、とにかく休め。寝ろ。

特にナジュ。
 
「僕は大丈夫だよ。あんなの怪我のうちに入らないし」

と、令月は口答えをした。

この野郎。これだから元暗殺者組は。

少しは、自分の身体を労るということを学べ。

子供らしくない奴ら。

「良いから休め」

「それに、さっきの爺さんだけど…」

「…そういう話は、全部後だ」

確かに俺だって、正直頭の中はパンク状態だよ。

一日のうちに、色々なことが起き過ぎている。

学院長室のチョコティーパーティーに参加したと思ったら、『不思議の国のアリス』の世界に巻き込まれ。

そこでシルナと二人、豆粒みたいなサイズになって。

テーブルだの食器棚だの冷蔵庫だの、厨房の中をアドベンチャーして。

ようやくお茶会に参加出来た思ったら、巨大アリスに襲われ。

それでも皆のお陰で難を逃れ、元の世界に帰ってきたと思ったら。

ナジュの…奥の手に関する秘密を聞かされ、それだけでも超驚いてたっていうのに。

今度は、予告も何もなしに、イーニシュフェルトの里の長が出てきたのだ。

こんな怒涛の一日があるか?しかも、放課後の数時間だけで。

俺だって、族長のことは気になる。

まさか…奴が生きていたなんて。

一体何をどうやったんだ。

気になることは山ほどあるし、話し合いたいこともある。

三日が経てば、再び攻めてくるのは分かっている。

ならば、その為の対策も…立てなければならないだろう。

しかし、それらは全部、後だ。

何もかも後回しだ。

その前にまず、身体を休めて、コンディションを万全にしなければ。

いくら話し合ったって、まともに頭が働くまい。

「丸ニ日間、全力で休もう。それから…三日目に全力で、対策を考えるんだ」

そうするしかあるまい。

二日では、シルナの魔力は完全回復しないだろうが。

ある程度は、マシになっているはずだ。

ナジュは…この様子を見るに、恐らく二日寝ていても、完全回復とは程遠いだろうな。

でも…丸二日休めば、こちらも少しはマシになるはずだ。

「…仕方ありませんね。積もる話はあるでしょうが…」

と、イレースは嘆息した。

「あぁ。…今は、休む時間だ」

…嘆くのも、後悔するのも。 

怒るのも、憤慨するのも、何もかも。

全ては、身体を休めてからにしよう。
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