神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
いつものメンバーが、いつもの学院長室に集結した。

一応…全員、普通に起き上がれるくらいには回復したらしいな。

「…ナジュ、お前身体…大丈夫か?」

この中で、間違いなく一番重症だったナジュに、そう尋ねた。

実は、まだ内臓がいくつか足りてないんじゃないだろうな。

こいつ、死に慣れているせいで、いくつか内臓がなくても普通に動き回るからな。
 
どうなってんだよ、お前の身体。

「あ、はい。平気ですよ」

さらっと、何事もなかったように答えたが。

「…大丈夫じゃないでしょ…。まだ全然治りきってないんだよ」

天音が、眉をひそめて言った。

「大袈裟ですね、天音さん。平気ですって」

「胃もないし、肝臓や膵臓もないのに、それは平気だって言わないよ」

やっぱり、内臓足りてないんじゃないか。

どうやって動いてるんだよ、お前は。

「でも、胃がないお陰で、今は胃が痛くなることはないですよ。いかにも胃痛が激しくなりそうな会議ですし、これはむしろ好都合…」

「そんな訳ないでしょ。だから、医務室で大人しくしててって言ったのに…」

天音が止めたのに、言うことを聞かなかった訳だな?

「こうも立て続けに、窮地に陥っているというのに…僕だけ休んでる訳にはいきませんからね」

「…あのな、お前…」

ナジュはそういう奴だよ。

適当な奴に見えて、実は誰より責任感があったりするのだ。

馬鹿だな。

こんなときくらい、自分の身体を労れよ。

確かに、俺達は今…相当厄介な窮地に陥っているが。

手負いのナジュに鞭打って、無理矢理戦わせるようなことはしないぞ。

いずれにせよ、今回お前の出番はない。

とりあえず、会議には参加させてやるが。

これが終わったら、天音の言う通り医務室で休んでてもらうぞ。

二度とナジュに、あの奥の手を使わせて堪るか。

何なら、そのまま一生使うなよ。

…馬鹿ナジュはともかくとして。

「…シルナ」

「…」

この二日間、めっきり無口になってしまったシルナに、俺はそっと声をかけた。

…これはまた、相当来てるな。

自分のせいじゃないのに、また何もかも自分のせいだと背負い込んで…。

気持ちは分かるが、でも今は…。

「あのな、シルナ…。お前は何も悪くない。お前が一人で背負い込んで、責任を感じる必要はな、」

「はい、そこまでです」

え?

シルナを励まそうとしたら、イレースに止められた。

これには、シルナもちょっとびっくり。

「な…何で止めるんだ?」

「時間がないからに決まってるでしょう」

…時間、って…。

そりゃ…もう24時間後には、再びイーニシュフェルトの里の族長が、ここを訪ねてくる…ことになってるが。
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