神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「私達には、要介護の老人を慰め、宥め、お優しく励ましてやる時間の余裕はありません」

「…」

イレース、きっぱり。

「落ち込んでいたいなら、一人でやっていなさい。そんな暇があるなら、私達はさっさと話し合いを続けます」

「…い、イレース…」

「大体、これで何回目ですか?昔のことを根掘り葉掘り聞かれては、いちいち落ち込んで、憔悴して、その度に羽久さんに慰めてもらって」

…それは…。

…何回目だろうな?確かに。

結構励ました気がするぞ、俺。

「全く、いい加減にしなさい。毎回毎回、同じような台詞で慰められ…。構ってちゃんですか、あなたは」

身も蓋もない。

イレースらしいと言えばイレースらしいが、あまりにも身も蓋もない。

「生憎今日は、構ってちゃんに構っている暇はないんです。めそめそしていたいなら、勝手にそうしなさい。でも…」

「…でも?」

「いっそ開き直って、あのうざったいジジィを撃退する方法を、共に考えると言うなら…話し合いの場に入れてあげましょう」

「…」

「その方が、余程建設的だと思いますが。どうですか?」

…イレース…。

…本当にな。お前の言う通りだ。

とんでもない荒療治だが…。今回は、効果覿面だな。

「…本当、そうだね」

余計に傷ついて、落ち込むかと思ったが。

シルナは、ふっと笑ってみせた。

この二日間で、シルナが微笑むところを初めて見た。

良かった…。

「耳が痛いよ、イレースちゃん…」

「話し合うつもりがあるんですね?」

「勿論、あるよ。…私も混ぜてもらって良いかな?」

「めそめそしないなら、良いでしょう」

「ありがとう」

相変わらず、スパルタ鬼教官のイレースだが…。

今回ばかりは、それが良い具合に転んだな。

シルナの調子も戻った。ナジュは…正直、今すぐ帰れと言いたかったが、言って聞く奴じゃないし。

まぁ、話し合いの場に参加するくらいは、許してやろう。

先の戦いで負傷していた、天音、令月の二人は、すっかりけろっとしているし。

イレースとすぐりは、元々元気だし。

俺は…俺も、この二日間でだいぶ良くなった。

完璧なコンディション…とまでは、行かないかもしれないが。

それでも、気を遣ってもらう必要はないくらいには、回復してる。

このメンバーなら、大丈夫だ。

多分、この世で一番信頼出来る。

相手がイーニシュフェルトの里の族長だろうと…遅れは取らないと誓おう。
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