神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…では、改めて。

「あの、里の族長についてだが…。…どうする?」

…と言っても。

聞くだけ野暮ってもんだな。

「どうするも何も、何人たりとも、学院に不法侵入して、私の完璧な授業計画の邪魔をするなら…粛清するまでです」

さすがイレース。即答だよ。

「え、あ、いや…。でも、一応、話し合いで解決出来ないかな…?学院長先生にとっては、同郷の人なんだから…」

心根の優しい天音は、暴力ではなく、話し合いで平和的に解決したい様子。

そうだな。それが出来るなら、多分一番良い。

シルナの苦しみを理解し、そして認めてもらいたい。

そうすれば、シルナも、誰も傷つくことはない。全てが丸く収まる。

しかし…。

「問題は、あのジジィが話し合いに応じてくれるか、だろ」

あの様子を見るに、とても話し合いをしてくれそうにないぞ。

問答無用で、殴りかかってきそうな勢いだった。

自称、イーニシュフェルトの誇り(笑)を何より重んじている奴らだ。

ヴァルシーナと言い、あのジジィと言いな。

そんな奴らが、里を裏切ったシルナを認め、和解してくれるとはとても…。

夢にも考えられない。

「無理かな…?やっぱり…」

「無理だろ…?あんなに拗れてるのに」

話し合うつもりがあるなら、先にそう言ってくるだろ。

それをせず、問答無用で殴りかかってきたのだから…。

あのジジィに、話し合いをするつもりはないと見て良いだろう。

血の気の多い奴だよ。

本当、ヴァルシーナにそっくりだよな。

あ、いや、逆か。

ジジィがヴァルシーナに似てるんじゃなく、ヴァルシーナがジジィに似ているのだ。

そんなに大事かね。イーニシュフェルトの里の誇りやら、威信やら。

俺にとっては、過去の栄光以外の何物でもないのだが。

とっくに新政権が発足して、何千年にもなるのに。

未だに、大昔の王家の血を重んじているような…そんな、時代錯誤を感じる。

いい加減、頭を最新バージョンにアップデートしろよ。

いつまで、昔の価値観まま生きるつもりだ?

すると。

「天音さん。話し合いは無理ですよ」

と、ナジュが当たり前のことのように、きっぱりと言った。

「え…そ、そうかな…」

「えぇ、無理です」

…やけに、はっきり断言するんだな。

そりゃ、話し合いに応じてくれそうな奴ではないが…。

でも、全く可能性が皆無って訳でも…。

「何で、そこまではっきり、無理だって言えるの?ナジュ君…」

という、天音の問いに。

「だって、死体と話し合いは出来ないでしょう?」

ナジュは、とんでもないことをさらっと言った。

…。

…死体?
< 519 / 634 >

この作品をシェア

pagetop