神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…今、なんかとんでもない情報を聞いた気がするんだが。

…死体って言ったか?ナジュ。

「え…。し、死体って…どういうこと?」

これには、天音もびっくり。

イレースも眉を釣り上げていた。

…が。

ナジュ、シルナ、そして元暗殺者組の二人は、平然としていた。

え、マジ?

分かってなかったの、俺達だけ?

「言葉の通りですよ。あれは死体です。読心魔法が通じなかったので」

「…!」

お前…。

…あの状況で、ジジィに読心魔法を使ってたのかよ。

「いや、でも…。イーニシュフェルトの里の賢者は、どいつもこいつも、揃いも揃って小賢し…いや、ずる賢いし」

「えっ、ちょ。羽久、それ私も含まれてるの…!?」

当たり前だろ。お前が代表だ。

「もしかして、ナジュが読心魔法を使えることを知ってて、敢えて心を閉ざしてたんじゃないか?」

ヴァルシーナも、似たようなことやってたんだろう?

ヴァルシーナに出来ることなら、あのジジィにも簡単に出来るだろう。

…と、思ったが。

「いえ、そうではなく…心そのものがなかったんです」

「…心そのものが、ない…?」

「肉体は確かにそこにあるのに、中身は空っぽと言うか…。さながら、この間戦ったアリスのように…動く人形を見ているようでした」

「…人形…」

人形だと…?

イーニシュフェルトの里の族長の、人形。

存在するのだとしたら、随分悪趣味な人形だが。

有り得るのか、そんなこと…?

更に。

「不死身先生の言う通り。あの老人、生きてないよ。死体だ」

「そーだね。俺も初見で分かったよ。あれは死体だって」

令月とすぐりの二人も、ナジュの意見に賛同した。

令月とすぐりまで…。

こいつらが言うなら、きっと本当なのだろう。

でも…。

「何で分かったんだ?」

お前達は、ナジュのように読心魔法は使えまい。

何を根拠に、あれが死体だと分かった?

「だって、匂いが」

「匂い?」

「死体の匂いがしたから。だよね、『八千歳』」

「うん。あれは間違いなく、死体の匂いだったね」

…そう言われて、俺ははっとした。

…そういえば。

あのジジィが部屋にいたとき、何処からか…腐敗臭のような匂いを感じた。

あれが、死体の匂いだったってことか。
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