神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「俺達は、誰よりもよく死体の匂いがどーいうものか、知ってるからね。間違いないよ」

「…」

…そうだな。

元暗殺者として、数々の屍と隣合わせに生きてきた、令月とすぐりが。

死体の匂いを間違える、ということは有り得ない。

じゃあ、やっぱり…。

ナジュ達の言う通り、あの族長は死体だったのか…。

そして。

「…私もそう思うよ」

「…シルナ…」

シルナまで…。

「族長は…いや、イーニシュフェルトの里の賢者達は…あのとき…確かに死んだ。全ての魔力を、私に託して」

「…」

「あの中に、族長の魔力もあった。確かに覚えてるよ。あのとき族長は、全ての魔力を使い果たして、消えたんだ」

…そうか。

…じゃあ、もう間違いないな。

「成程、死体ですか…。確かにあの男、徹夜明けの学院長のような、死んだ魚の目をしていましたね」

と、イレース。

「イレースちゃん…。私、そんな目してた…?」

「正体が死体だというなら、それも納得です」

イレース、シルナの質問を無視。

…どころか。

「死体なら、ますます遠慮する必要はありませんね。容赦なくぶちのめして、死人は棺桶の中に帰ってもらいましょう」

…相変わらずだが…本当容赦ねぇな。

でも今回は、俺もイレースと同意見だ。

相手が死体なら、遠慮する必要はない。

死体はさっさと、墓の中に埋葬されるべきだろう。
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