神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「操り人形だと推測する根拠は?」

と、イレースが尋ねた。

「族長達が研究していた死者蘇生の魔法が、本当に完成してたとは思えないし…。そもそも、完成してるなら、もっと早く現れたと思うんだよ」

確かに。

里が滅びてから、一体何千…何万年経ったことか。

死者蘇生の魔法で蘇ることが出来るなら、もっと早く出てくるだろう。

しかし、ジジィの姿を見たのは、これが初めてだ。

ってことは、墓の下から出てきたのは、つい最近の出来事だと思われる。

「そして…族長はあのとき…聖戦で、確かに死んだ。つまりこの度私達が見たのは、族長の死体以外の何物でもない」

「…」

「ナジュ君の読心魔法が通用しないのも、それから…」

「僕と『八千歳』が死臭を感じたのも、あれが死体だから…だよね?」

「…そういうことだね」

成程。

俺達が見たあの族長は、死体であると確定している。

じゃあ、何で死体が動いているのか?

…理由は簡単。単純明快。

死体を操り人形にして動かしている、悪趣味な誰かがいるから。

そう考えれば、辻褄は合う。

何だかんだ俺達、各方面に敵が多いからな。

誰に狙われたとしても、おかしくない。

シルナがイーニシュフェルトの里出身であることを知っていれば…族長との繋がりを推測するのも容易だ。

俺達の存在を知る何者かが、自分の意志で…あるいは誰かに頼まれて…。

わざわざ族長の死体を掘り起こして操り、俺達の前に現れたのだろう。

…本当に悪趣味。

今回の童話シリーズの一件で、色々な人ならざるモノと戦ってきた俺達だが。

さすがに、死体は初めてだぞ。

死体って、殺そうとしたら死ぬんだろうか?

既に死んでる者を、どうやって殺せば良いんだ?

文字通り、死体蹴りするしかない。

しかし…それで勝てるのだろうか…?

ナジュみたいに、殺しても殺しても蘇ったりして…。

意志を持たない操り人形なら、それも有り得るよな?

…どうやって倒したら良いのか、分からなくなってきた。

「死体を操ってる、悪趣味な野郎がいると仮定して…」

そいつの目的が何なのかも気になるが、その前に。

「…死体を、どうやって倒すんだ?」

もし自由自在に、どんな死体でも操ることが出来るなら。

それって、もしかして最強なのでは?

だって、死体なんて墓地に行けば、いくらでも埋まってるだろう。

そこから無限に、ゾンビ兵を蘇らせて。

それこそゾンビ映画みたいに、ゾンビによる軍隊を作ることも可能だろう。

うわぁ。想像しただけで気持ち悪い。

そういうのは安っぽい、B級ホラー映画だけで充分だ。
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