神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
XVII
―――――――…あぁ、全く本当につまらないことになったものだ。





「許さぬ…。里の悲願を踏みにじった…。我らの悲願を…。許さぬ…裏切り者、裏切り者…」

「…やれやれ」

口を開けば、ぶつぶつぶつぶつと同じことばかり。

…「あの」伝説のイーニシュフェルトの里の族長だというから、どんな威風堂々たる大賢者様が現れるのかと思いきや。

蓋を開けて出てきたのは、下らない復讐に燃える老いぼれ爺さんだった。

こんなにつまらないことがあるだろうか。

こんなつまらないことになるなら、ハナからあのような誘い…受けなければ良かった。

なんて、今更後悔しても遅い。

今からでもやっぱり「彼ら」を裏切って、何処かにトンズラしてやろうかと思わなくもなかったが…。

…でも、つまらない仕事の中にも、多少の面白いことはある。

それが、あのときあの場にいた魔導師達だ。

今ここにいる、老いぼれ族長の復讐相手。

名前は確か…シルナ・エインリーだったか。

あいつと、あいつの周りにいた魔導師達。

あいつらは…若干の興味をそそられる対象だった。 

「あいつらは強そうだったもんなぁ…」

嬉しくて、思わず微笑んでしまいそうになる。

さすが、イーニシュフェルトの里の族長に目をつけられた一味だよ。

「彼ら」が言っていたのは、こういうことだったんだ。

揃いも揃って、一筋縄では行かなそうなメンツが揃っていた。

それに何より、蘇った死体を見たときの、シルナ・エインリーの顔。

何度見ても、ああいう顔は飽きない。

死人に口はないと思ってるだろう?

誰しも死んでしまえば、物を言う資格も、権利もなくなると思っている。

でも、それは生者が勝手にそう思い込んでいるだけだ。

死人には、死人の言い分がある。

僕は、そんな死者達の代弁者になるのだ。
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