神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
僕はびっくり仰天した。

目が覚めたら、ろくに身体を動かせない芋虫状態になってるのだから、そりゃ驚くだろう。

父親の仕業だった。

父は牢屋の鉄格子の向こうにいて、いかにも憐れだという目で僕を見つめていた。

眠っている間に縛られ、牢屋に入れられたのに、気づかず眠りこけているとは。

今になって思えばあの日、寝る前に父にお茶を飲まされた。

恐らくあのお茶の中に、睡眠薬みたいなものが入っていたのだろう。

…ともかく。

牢屋に入れられた僕は、当然ながら、ここから出してくれるよう頼んだ。

何故、自分がこのような扱いを受けているのか分からなかった。

しかし、父は牢屋から出してくれることはなかった。

「こうするしかないんだ」

父は、泣き出しそうな顔でそう言った。

「お前には申し訳なく思っている。でも…お前の為に、村の為に…こうした方が良いんだ」

「…?」

父が何を言っているのか、何を泣いているのか分からなかった。

更に、奇妙なことに。

牢屋の中には、枯れ木や藁、紙などが敷き詰められ…僕はその上に寝かされていた。

降りたかったけど、身体が不自由で降りられなかった。

「すまない。許してくれ…すまない」

父は繰り返し、涙を流しながら僕に謝罪を繰り返した。

その謝罪の意味も、僕には分からなかった。

まるで、永遠の別れのようじゃないか。

何か嫌な予感がして、腹の底からじわじわと恐怖心が湧き上がってきた。

父親の顔を見るに、何かの間違いとか、ふざけているのではないと分かった。

早く、今すぐにでも、この牢屋から出なくてはならない。

そこに、険しい顔をした村人が数人やって来た。

僕を助けに来てくれたのかと思ったけど、そうじゃなかった。

「…もう良いだろう、離れなさい」

鉄格子に縋るようにして泣く父に、村人がそう言った。

村人にたしなめられ、父は鉄格子から離れ、泣きながら後ろに下がった。

父はそのまま僕に背を向けて、こちらを見ようとしなかった。

まるで、見たくないものから目を背けるように。

…そして。

「…良いか、お前は生きていてはならない子だ」

村の中では、村長のような役割をしていた年長の村人が、僕にそう言った。

そのとき、僕は気がついた。

村長が、メラメラと燃える松明を手にしていることに。
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