神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「お前は忌み子だ。人でありながら、人ではない力を持って生まれてしまった」

「…」

僕はポカンとするばかりで、何も言えなかった。

忌み子?

人でありながら、人でない力を持っている?

それは何のことだ。死体を動かしていることか?

それが何だと言うのだ。別に大した力ではないだろう。

そのときの僕は、自分の能力が特別なものだと知らなかった。

生まれつき足が速いとか、生まれつき頭が良いとか、そういう個性の範疇だと思っていた。

でも、僕のこの能力は。

個性の範疇と呼ぶには、あまりに危険な力だった。

だからこそ。

「今ここで、我々はお前を葬る」

硬い顔で、村長はそう言った。

…葬る?

幼い僕は、その言葉が何を意味するのか分かっていなかった。

言葉の意味は分からなかったけど、涙を流す父と、険しい顔の村長の様子を見るに。

これから何が起ころうとしているのか、朧気ながら理解した。

恐ろしいことが起ころうとしている。何か、とても恐ろしいことが。

「何をするの…?やめて。ここから出してよ」

幼心に焦燥を感じた僕は、村長にそう懇願した。

しかし村長は、黙って首を横に振った。

村長だけではない。

父を含め、この場にいる村人全員、僕を助ける気はないようだった。

それどころか、全てを諦めたような顔で、何かを覚悟したような顔で、僕を睨みつけるかのように見つめていた。

どうして、大人達がこんな恐ろしい顔をしているのか。

僕は怖くなって、再度ここから出してくれるように頼んだ。

しかし、村長は答える代わりにこう言った。

「これはお前の為なのだ。人ならざる力を持って生まれたお前を、土に還し、神の御下に返す」

何を言っているのか分からなかった。

それが恐ろしい意味を持つということ以外、僕には理解出来なかった。

僕の為?これが?

眠っている間に、両手足を縛り、牢屋の中に閉じ込め。

恐ろしい顔をして僕を取り囲むのが、僕の為?

「どうか、我らを恨まないでくれ…。そして、次に生まれてくるときは、普通の子供に生まれるんだよ」

村長は悲しそうにそう言って。

そして。

「…さぁ、やりなさい」

傍らの村人達に指示した。

村人達は、いつの間にか…大きなポリタンクをいくつも手にしていた。

ポリタンクの中の液体を、鉄格子の隙間から、こちらにぶち撒けた。

水かと思ったけど、鼻をつくような不快なその匂いから、水ではないと分かった。

それが何の液体か、当時の僕には分からなかった。

ただ父は泣き、ポリタンクをぶち撒ける村人達も、悲痛な顔をしていた。

良くないことが起ころうとしている。何か、良くないことが。

「…助けて。お願い、助けて」

僕は、必死に村人達に命乞いをした。
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