神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「お前…。お前ら、何をした…!?何で、死体が…」

…と、ネクロマンサーは明らかに狼狽していた。

本当に知らなかったのかよ。

それでよく、ネクロマンサーやってこれたな。

まぁ、木の陰に隠れる、なんて初歩的な隠れ方してたくらいだもんな。

能力自体はえげつないけど、頭の方はあまり宜しくないようだ。

俺達にとっては大助かりだけどな。

…で、俺達が死体に何をしたのか、だったな。

簡単な話だ。

「聖水だよ」

「せい…すい?」

「ネクロマンサーが操る死体は、この聖水をぶっかければ、この通り…溶けて無効化出来るんだと」

って、シルナが言ってた。

「…!!」

これには、ネクロマンサー本人もびっくり。

ちなみに、この聖水もシルナが作ってくれた。

作り方はと言うと、普通の水に、賢者であるシルナが光魔法で特殊な加工?をすることで、聖水に変わるんだと。

便利なもんだ。

面倒な手順を踏まなければ出来ないので、聖水を量産することは不可能だが。

しかし、襲撃があると分かっているなら、対策の立てようはいくらでもある。

「観念しな。おまえの負けだ」

「…っ…!」

万事休す、だな。

虎の子だった族長の死体も、この通り無効化。

別の死体を操りたいなら、お好きにどうぞ。

聖水はまだ用意してある。操る度に、頭からぶち撒けてやるよ。

「何で…ここが分かったんだ…?」

と、尋ねるネクロマンサー。

何でって言われても…答えてやる義理はないのだが…。

お前が、あまりにも安直な場所に隠れてたからだよ。

…というのはまぁ、半分は本当だが、もう半分は嘘になる。

俺達がこうも正確に、ネクロマンサーの居場所を探し当てることが出来たのは…。

…それは、シルナの分身のお陰だ。

ただの分身じゃないぞ。

この度活躍したのは、新種のシルナ分身。

その名も、シルナチワワである。

チワワだけなら、すげー可愛いんだけどな…。

シルナチワワだからな。台無しだよ。

「あっ…。また羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…!」

「気のせいだ」

そして事実だ。

…で、何でシルナがチワワの分身を作ったのかって言うと。

これまで、何度かネクロマンサーの操る死体と遭遇して。

その度に、独特の腐敗臭…元暗殺者達が言うに、死体の匂い…が漂っていただろう?

死体なんだから、腐った匂いがするのは当然だが。

その匂いがする場所に、ネクロマンサーがいると踏んだ訳だ。

そこで、シルナチワワの出番である。

言うまでもないが、犬の嗅覚は人間のそれより、遥かに優れているだろう?

その習性を利用して、シルナチワワが腐敗臭を感知した場所の近くを、徹底的に捜索したのだ。

そうしたら、案の定こうして…ネクロマンサーを見つけた。

シルナの分身の割にはよくやった、シルナチワワ。

本物のチワワに対する風評被害が酷いから、もう二度と出てこなくて良いぞ。

チワワって、そんなことの為に存在してるんじゃねーから。
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