神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「やめんか、お前ら」

目の前で生爪を剥がされても困る。

「え、何で?尋問の基本じゃん」

それは『アメノミコト』での流儀だろ。そんなことを基本にするんじゃない。

「じゃあ、石でも抱かせる?」

「やめろ」

ガチの拷問じゃないかよ。

ったく、シルナは甘過ぎだし、令月とすぐりは過激だし。

何でこう両極端なんだ。

中間はいないのか、中間は。

…すると。

「…何を馬鹿なことを」

俺達のやり取りを見ていたイレースが、吐き捨てるように言った。

おっと。我が学院の女王様がお怒りだぞ。

「馬鹿なことって言ってもな…。ようやく捕らえたんだから、色々喋ってもらう必要が…」

「喋らせる必要はないでしょう。拷問も尋問も必要ありません」

え?

「必要ないって、何で…」

「何の為にこの男がいるんです。これを使いなさい」

と、言って。

イレースは、まるでモノのようにナジュの耳を引っ張った。

「いたたたたた。これって何ですか、これって」

「良いから、さっさとこのクソガキが何を考えているのか読みなさい」

イレースのその言葉で、俺も気がついた。

本当だ。

尋問する必要なんてなかった。

ナジュが一人いれば、読心魔法で相手が何を考えているのか筒抜けだ。

ナジュ相手に嘘は通用しない。下手な拷問より、余程信憑性がある。

「こんなときくらいしか役に立たないでしょう。今こそ存分に役に立ちなさい」

酷い言いようだよ。

「えー。普段から役に立ってますよ、ねぇ?天音さん」

「えっ?あ、うん」

いきなり話を振られて、戸惑いながら頷く天音。

「…ちなみに、どんなときに役に立ってるの?」

「それはあなた、生徒達の隠している秘密をこっそり探ったり、学院長が隠した秘蔵のチョコレートを摘み食いしたり…」

「…そういうことには、あまり役立てない方が良いと思う…」

この色ボケ教師、やっぱり一回クビにしようぜ。

「下らないことを言ってないで、早くしなさい。逃げられたらどうするんです」

と、イレースが急かした。

いや、子供に令月の拘束を解けるとは思えないし、俺達もこうして見張ってるし。

逃げられる心配はない…と思うが。

まぁ、万に一つということもあるし。

このガキが何を企んでいるのか、早いところ明らかにしておくべきだろう。

「はいはい、分かりましたよ…。じゃあ聞きますけど。あなた、名前は何て仰るんですか?」

ルーデュニア聖王国イチ、尋問官に優れた男、ナジュが。

地面にしゃがみ、ネクロマンサーと視線を合わせた。

そのときのナジュは、さすがに真面目な表情だった。

頼むぞ。ネクロマンサーが何を考えてるのか、上手く引き出してくれ。
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