神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
ナジュが尋問するまでもなく、自分から話してくれれば、もっと早く進んだのだろうが。

「…」

ネクロマンサーのガキは、黙秘を続行。
 
名前くらい教えろよ。

「…まぁ、じゃあ名前は後にしましょう。あなた、何処から来たんですか?」

名前の次は、出身地。

ルーデュニア聖王国の生まれか?

それとも、また別の世界の…。

「…」

しかし、こちらも黙秘。

むっつりと、不機嫌な顔で黙っている。

…こいつ…。

「…何だかイラついてきましたね」

あまりに黙秘を続けるものだから、痺れを切らしたイレースがそう呟いた。

無意識なのか知らないが、両手の指をポキポキ鳴らしている。

こえーから、ちょっと落ち着いてくれ。イレース。

まだ尋問は始まったばかりだろ。

「年齢は?歳はいくつなんです。その歳でこんな悪さをしたら、ご両親が泣き…あ、」

あ?

ナジュは喋るのをやめ、まじまじとネクロマンサーのガキを見つめていた。

…何か分かったのか?

ガキもガキで、年齢のことを聞くと同時に、眉を吊り上げた。

年齢はタブーなのか?聞かれて不味いことでもあるのか。

「…成程…。それは気の毒でしたね。見た目通りクソガキだと思ってたんですが」

と、ナジュが言った。

えっ。

見た目通りクソガキ…じゃないのか?

「…何をぶつぶつ言ってるんだよ、お前。気持ち悪い」

ネクロマンサーは、目の前のナジュに唾を吐きかけんばかりに、悪態をついた。

「もう飽きたよ、こんなこと。さっさと解放してくれないかな」

「そうは行かないんですよ。僕達は皆、あなたに用があるんでね」

「俺に用はないね」

「だってあなた、放っておいたら…また死体を掘り起こして、それどころか童話シリーズを僕達にけしかけてくるつもりなんでしょう?」

「…!」

…童話シリーズ。

やっぱり、俺達を苦しめたあの一連の魔法道具は…こいつの仕業なのか。
 
「あくどいことしますね、あなた。イーニシュフェルトの里の族長を操って、隠されていた童話シリーズの魔法道具の封印を解かせた」

と、ナジュは続けて言った。

「おまけに、本来の魔法道具より更に改良させて…。そりゃ、あの魔法道具を作ったのは、他でもないイーニシュフェルトの賢者ですからね。死体とはいえ、製作者の手にかかれば、改造は可能でしょう」

…なんてことを。

元々は、里の子供の玩具として作られたはずの魔法道具が、何故あれほど危険な力を持っていたのか…。

長い間疑問だったが、ようやく得心が行った。

このガキが、魔法道具の製作者である賢者の死体を操って、魔法道具を改造せていたのだ。

そうして改造した魔法道具を、俺達にぶつけてきていた。

魔法道具が、あれほど危険な力を持っていたのも。

潰しても潰しても、雨後の筍のように次々と俺達に襲いかかってきたのも。

全ては、事件の裏でこのガキが操っていたからなのだ。
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