神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
完膚なきまでに叩きのめせば、ゾンビと言えども黙らせられることが分かったとはいえ。

それは、口で言うほど簡単な作業ではなかった。

「くそっ…。数が多い…!」

降っては湧き、降っては湧き。

倒した傍から、また別の死体が襲ってくる。

おまけに、ただの死体じゃない。

族長の死体以下、魔導師だった者の死体は、ご丁寧に魔法を使ってこちらを攻撃してきた。

死体となっても魔法が使えるのか。どうなってるんだ。

勿論、それは死体本人の意志ではなく…ネクロマンサーが操っているだけなんだろうが。

元々イーニシュフェルトの里にいた賢者の死体なだけあって、死体の癖に、かなりの威力の魔法を使ってきやがる。

一体一体が強い上に、この死体、無限湧きなのだ。

何とか一体倒しても、気がついたらまた補充されている。

…全く切りがない。

「ちっ…。面倒臭いですね」

イレースが舌打ちしたくなるのも、分かるというものだ。

俺もさっきから、何度舌打ちを噛み潰したことか。

…この状況を打開出来るとしたら、方法がない訳ではない。

ちまちま一体ずつ倒すのではなく、一気にドカンと、魔力の塊をソンビ集団のど真ん中に炸裂させる。

そうすれば、一気に何十体の死体を始末出来るだろう。

…それは分かってるんだけど。

でもここは、イーニシュフェルト魔導学院のグラウンドなのだ。

そんな攻撃をしたら、我が学院のグラウンドは、一夜にしてすり鉢のように風穴が空いてしまう。

生徒もびっくりだろうな。

つーか、深夜にそんな大きな音を立てたら、驚いた生徒が飛び起きかねない。

あくまで生徒には何も気づかせず、何の心配もさせずに、事を解決したい。

それ故に、俺達はこうして手をこまねいて。

シラミのように次々と湧く死体達を、それこそシラミのように一匹ずつ、ぷちぷち潰していくしかないのだ。

死体を相手にすることに、最初こそ罪悪感を感じたものだが。

10体くらい倒した頃には、そんな罪悪感は消えてしまった。

鼻をつく不快な腐敗臭も、段々慣れてきた。

気持ち悪いけどな。

おまけに、次第に疲れてきた。

ゾンビ集団を一網打尽に出来ないなら…。他に方法は一つだけ。

このゾンビ集団を指揮しているネクロマンサーを止める。

さっきから俺は、何度もネクロマンサーを止めようと試みていた。

しかし。

「ちっ…」

俺は、何度目になるか分からない舌打ちを溢した。

一歩前に出て、ネクロマンサーに肉薄しようとする度に。

危機を察知したのか、ネクロマンサーは自分の身を守る為に、死体達を密集させた。

これじゃあ、近づこうにも近づけない。

お陰で、状況を打開出来ないまま、時間だけが過ぎていく。

それなのに。

「ふふ、イーニシュフェルト魔導学院の教師って言っても、意外と大したことないんだね」

ネクロマンサーの奴は、死体に戦わせながら、俺達を見下してきた。

…何だと、この野郎。今なんつった?
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