神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「あんた達の悪名は聞いてるよ。ルーデュニア聖王国で、幅を利かせてる魔導師なんでしょ」

「…」

幅を利かせてる…と言われれば、まぁそうなのかもしれない。

特にシルナとかな。

あとは…「前の」俺もそう。

「もっと歯応えのある魔導師が出てくると思ってたのに…蓋を開けてみたら、これだよ」

「…」

「たかが死体ごときに手間取っちゃって。最初の余裕はどうしたのさ?」

「…」

…それは…。

「全然大したことない。こんなもんなんだ?ルーデュニア聖王国の魔導師ってのは」

「…」

「もう良いや、つまらない。もうちょっと楽しめると思ったのに…興醒めだね」

…あ、そ。

お前が何を期待していたのか知らないが、俺達はこんなもんだよ。

クソ生意気なことを言ってくれる。

一万年も生きてる癖に…やっぱりクソガキじゃないかよ。

好き勝手言いやがって…。

俺達だって、ここがイーニシュフェルト魔導学院のグラウンドじゃなかったら。

今頃こんなゾンビ集団、あっという間に一網打尽にしてやったさ。

こっちは気を遣いながら戦わなきゃいけないのに、お前は好き勝手に…。

「どうやったらもっと歯応え…。…あ、良いこと思いついた」

あ?

「あんた達じゃなくて、今度は生徒を狙うことにするよ」

「…!」

こいつ、今なんと。

「生徒達がいるのは…何処だったかな?もっと向こうだっけ?たくさんいるよね、学校なんだもん」

「…お前…!」

「これまでも何人か、生徒を脅かしてきたけど。今度は襲ってみよう。どんな反応するかな?きっと面白いだろうね」

…この、悪趣味野郎。

面白いだろうね、じゃねぇぞ。

「お前、生徒に手を出してみろ。ただじゃ済まさんぞ…!」

「へぇ?何するの?ただじゃ済まさんって、何するつもりなの?」

俺が声を荒らげても、全く怯む様子を見せないどころか、愉快そうにせせら笑う始末。

…放っておいたら、本当にやりかねない。

このゾンビ集団の大群を、学生寮に差し向ける。

そんなことになったら、生徒達に被害が及ぶ。

絶対に、それだけは許してはならない。

「よし、じゃあ試しにやってみようか。もっと面白い顔が見られるだろうね」

ネクロマンサーは楽しそうにそう言って、死体を操った。

20体くらいの死体が、学生寮の方向に向かって、ゆらゆらと歩き始めた。

不味い。止めなければ。

生徒を襲わせるようなことは、決して許さない。

しかし、それを阻むように、他の死体達が俺の前に立ち塞がった。

文字通り、肉の壁だ。

くそっ、邪魔を…!

「シルナ…!もう…!」

「…うん、こうなったら…」

この状況を打開するには、もう方法は一つしかない。

やはり、ゾンビ集団のど真ん中に、風穴を開けるより他にない。

シルナも覚悟を決めたようだ。

周囲に被害が出かねないが、しかし…生徒の命を脅かされるよりはマシだった。

…背に腹は代えられない。こうなったら。

「目にもの見せて…」

ゾンビ集団を一網打尽にする為、杖に魔力を込めようとした、

その時だった。





「…さっきから聞いていれば、勝手なことを」

え?
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