神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…。

…イレースだった。

イレースが、こめかみにピキピキと血管を浮き立たせていた。

びっくりした。怖っ。

イレースは、バチバチと杖に雷を迸らせていた。

近寄ったら、俺も危うく丸焦げにされかねなかった。

い、イレースお前。何を、

「うわー…。怖ーい」

イレースの心を読んだらしいナジュが、棒読みでそう呟いた。

「…退きなさい」

イレースは死体を物ともせず、女王然としてずんずんと歩いて行った。

止めたかったけど、なんか止められそうな雰囲気じゃなかった。

皆の者、女王に道を譲れ。

…死にたくなければな。

「な…何だよ?」

「…」

襲いかかる死体を物ともせず、自分のもとにツカツカ歩いてきたイレースを見て、さすがのネクロマンサーもちょっと狼狽えていた。

そりゃそうなる。

あまりのイレースの気迫に、気圧されていたようだが…。

「…へ、へぇ。怖くないんだ?生徒がどうなっても良いんだね?」

この気迫に負けじと、脅しをかけてきた。

「…」

イレースとて、生徒を人質に取られたら何も言えない。

…生徒を傷つけさせる訳にはいかない。

交渉でも何でも良いから、生徒に手出しをするのは…。

「俺を止めに来たの?良いよ、やってみなよ。その代わり、俺に何かしたらすぐ生徒を襲わせるから。その覚悟があるなら、どうとで…、…!?」

ネクロマンサーが脅しをかけようとした、そのとき。

イレースの強烈な拳骨が、ネクロマンサーの脳店に炸裂した。

すげー生々しい音がした。ガゴッ、て。

頭蓋骨折れたんじゃね?

そのくらい凄まじい音だった。

「…」

目の前に火花が散っているに違いないネクロマンサーは、目を白黒させて、よろめいてその場に座り込んだ。

敵ながら、ちょっと可哀想だった。

イレースの鉄拳を脳天に食らうなんて…俺だって御免だよ。

痛いじゃ済まないからな。

「…いい加減にしなさい、このクソガキ」

ポキポキと指を鳴らしながら、イレースはネクロマンサーを見下ろした。

女王の貫禄。

いや、うん。確かに見た目はガキなんだけど。

イレース、そいつ、お前より歳上だぞ?

と、ツッコみたかったが無理だった。

今のイレースに、横から口を挟もうものなら…俺達の脳天にも、先程の鉄拳がめり込むことになる。

シルナも天音もあわあわしていたし、ナジュは何事もなかったようにそっぽを向き。

令月とすぐりは、君子危うきに近寄らずとばかりに、いつの間にかイレースから10メートルくらい離れていた。

こいつらの危機察知能力は本物だ。

正直、俺も逃げ出したい。

あの状態のイレースを前に、矢面に立たされるなんて…命知らずも良いところだ。
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