神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「謝罪しなさい」

「…ご、ごめん」

本当に謝らされていて、ネクロマンサーが気の毒になった。

…しかし。

「…ごめん?それが謝罪ですか?」

ギロリ、と眼光が鋭く輝くイレース。

そんな生半可な謝罪では許さない、と?

「このクソガキは、謝罪の仕方も学んでこなかったんですか?」

「え、いや、あの…」

「…仕方ありません。もう一発殴れば…正しい謝罪の仕方が分かるようになるでしょう」

再び拳を握ろうとするイレースに、ネクロマンサーは慌てて、その場に膝をついた。

「ご、ごめんなさい…」

「宜しい」

可哀想。

敵ながら、凄く可哀想。

「…それで、あなたは何を謝ってるんですか?」

え?

「自分が何を悪いことをしたのか、自覚しているんでしょうね?」

「え、そ…それは、生徒を襲おうとしたから…?」

…だよな。

その点は、ネクロマンサーもちゃんと理解して、

「違います。…そんなことも分からずに、口先だけで謝罪していたんですか?」

再びイレースに睨まれ、背筋を震わせるネクロマンサー。

…違うのか?

「あなたは幾度も夜間に学院に侵入し、生徒を脅かして、幽霊騒ぎを引き起こした。そのせいで生徒達は、下らない幽霊騒ぎにうつつを抜かして、授業中も集中力を欠いていました」

「…」

「お陰で、ここ最近の生徒達は、授業に対する心構えが出来ていません。あなたが余計な騒ぎを起こしたせいです」

「…」

これには、ネクロマンサーもポカン。

いや、そんなこと言われても…と思ってるに違いない。

生徒を襲おうとしたことより、授業が上手く行かないことの方に怒っていたのかよ。

まぁ、イレースはそういう奴だ。

「ただでさえ、様々な外的要因のせいで、散々狂わされているというのに…。私の完璧な授業計画を台無しにしてくれた、そのお礼をどうしてくれましょうか」

イライラしながら、イレースはそう言った。

「そ、それは…その…」

ネクロマンサーも困惑。

そんなつもりで死体を蘇らせた訳じゃないだろうに。

しかし、結果として女王様を怒らせている。

まぁ、あれだよ。

身から出た錆だと思ってくれ。

「…良いですね、金輪際、一切私の手を煩わせないこと」

イレースの声は、凍るほど低く…そして威圧的だった。

イレースを全く知らない人でさえ、この顔と眼光と、この威圧的な声を聞けば。

誰でも正座して、深々と頭を下げることだろう。

絶対逆らっちゃいけない相手ってのが、この世にはいるんだよ。

命が惜しかったらな。

「…もう二度と悪さをしないこと。…分かりましたね?」

「…」

「返事」

「は、はい…」

…めっちゃ可哀想。

まさかネクロマンサーも、敵の中にこんな恐ろしい女王様がいるとは、思ってなかっただろうな…。

お前の調査不足だ。残念だったな。
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