神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
こうして。

呆気ないほどに、ネクロマンサーを無力化。

襲いかかるゾンビ集団は、跡形もなく消え。

シルナに復讐を望んでいた、あの族長の死体も…土の下に帰っていた。

…本当に呆気ないな。

あんなに苦心していたの、何だったんだ。

まさか、一切合切の面倒事が、イレースの拳骨一発で解決するとは。

世の中ってのは、複雑そうに見えて、意外と単純なのかもしれない。

暴力で解決するのはどうなんだ、と思うけど。

今回の場合は、どうやら結果オーライだったようだ。

…と、言うのも。

「で、あなた名前は何と言うんです」

「えっと…。…ルディシア。ルディシア・ウルリーケ」

「ふーん。無駄に豪華な名前ですね…本名ですか?」

「本名です…」

「年齢…は、一万を越えてるんでしたっけ」

「はい」

「生まれ故郷は?」

「ルーデュニアじゃないです。もっと北の方で…」

「ふーん。そうですか」

「はい…」

…ネクロマンサー、めちゃくちゃ素直になってるんだけど。

どうやらこのクソガキ、ただの天邪鬼だったらしい。

まぁ、明らかに構ってちゃんっぽかったもんな…。

周りの人に構って欲しくて、わざと悪戯をして気を引くような…そんな幼さがあった。

一万年も生きてるっていうのに、思考回路は子供だな。

令月達の方が、精神年齢高そう。

…それにしても。

ルディシアって言うのか。名前…。

立派な名前つけてもらってんじゃないか。

「まぁまぁ、何はともあれ…平和になって良かった。はい、お近づきの印にチョコケーキ、どうぞ」

ネクロマンサー、改めルディシアと会話が通じるようになった途端に。

シルナは、満面笑みでチョコケーキを差し出していた。

一緒にチョコケーキを食べれば、どんなに憎み合っていた敵とも仲良くなれる、というのがシルナの信条である。

…まぁ、別に憎み合ってはいないけどな。

この様子を見るに、ルディシア本人は、個人的な理由で俺達を攻撃していた訳ではなさそうだ。

何せ、イレースの拳骨一発で全てが解決したからな。

暴力的なようで、裏を返せば、ある意味で一番平和な解決法だったような気がする。

「…」

差し出されたチョコケーキを、ルディシアは手を出さずに、まじまじと見つめていた。

「毒は入っていませんよ。心配しなくても」

と、イレースが言った。

「…でも、この人は俺に恨みがあるんじゃないの?」

恨みだと?

まさか、里の族長の死体をシルナにけしかけたことか?

「…馬鹿馬鹿しい」

俺が答える前に、イレースがそう言って溜め息をついた。

「恨みがあったって、この男が気に入らない相手に毒を盛るような、そんな度胸があるものですか。根っからの腰抜けなんですから」

「…うん。イレースちゃんが、私にとっても失礼なことを言ってる…気がするけど、拳骨が怖いから何も言えない…」

そうか。残念だったなシルナ。

ま、そういうことだ。

一緒にチョコケーキを食べて、全て帳消しにするという…我が学院の流儀に従って。

この場は、このチョコケーキ一つで丸く収めるとしよう。
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