神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「眠いよージュリス〜」

「…」

そうだな。夜だもんな。

ただでさえお前はお子様脳みそだし、夜は眠くなるよな。

一時期不眠を訴えていた時期があったが、今は無事解消したようで何よりだ。

…で。

「何で、眠いのに俺の部屋に来るんだよ?」

部屋で寝てろよ。眠いんだろ?

すると、ベリクリーデはきょとんとして。

「だって、眠いから」

答えになってねぇよ。

こんな時間に、男隊舎を訪ねてくるんじゃない。

誰かが良からぬ気を起こさんとも限らないし、何より余計な誤解を招くだろうが。

ただでさえ、ベリクリーデと結婚式を挙げただの、一夜を共にしただの、好き勝手な噂を流されているのに…。

間違ってはないのかもしれないが、皆さんが思ってるようなことは何もないぞ。

良いか、何もないからな。

俺は清廉潔白だ。

…だというのに。

ベリクリーデは、全くお構いなしに俺のベッドに腰掛けた。

何でそこに来るんだよ。帰れ。帰って自分の部屋で寝ろよ。

「ねぇジュリス」

「何だよ…。帰って寝ろよ」

「ジュリスの剣、見せて」

…あ?

「何だよ、いきなり…。剣って何のことだ?」

「ジュリスの剣だよ。あの黒い、ギザギザの剣」

…あぁ。

「『魔剣ティルフィング』のことか…」

「そんな名前なの?何だか格好良い」

格好良い、ねぇ。

格好良いだけなら良かったんだが。

「その剣、見せて」

「…」

相変わらず…物怖じしない奴だな、お前は。

俺にとっては…あまり良い思い出がないから、出来るだけ普段は姿を見せないようにしてるんだが。

それを「見せて」とは。

…まぁ、別に良いけどさ。

見せたところで、減るものでもなし。

「ほら、これで良いか」

俺は『魔剣ティルフィング』をベリクリーデに手渡した。

相変わらず、禍々しい刀身だ。

「凄い、格好良いね」

「そうか?」

「私も使いたい」

ほう?

お前も剣士を目指すか。

魔導師でありながら剣士。得物が増えて悪いことはないが…。

しかし、ベリクリーデその魔剣はおすすめ出来ないな。

別に、俺がその剣を独占したい訳じゃない。

そうではなく。

「お前はやめておけ」

「?何で?」

「これは闇の魔力に適合する剣だからだ。お前は光の魔力の持ち主だから、お前には扱えないよ」

「…そうなの?」

「そうだよ」

だからやめとけ。

お前に、この剣は不釣り合いだ。
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