神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「うん、先生なら知ってるよ、ジュリス先生」

誰だよ。

「先生じゃなくて、聖戦だ、聖戦。神々が争ってただろ、大昔」

「あ、神様が私の中にいなかった頃の話?」

「そうだ」

「そっかー。じゃあ知らないな。私生まれてないもん」

そうだけど。

でも、そうじゃないだろ。

…あぁ、もう良い。頭痛がしてきた。

どうせ聖戦の話はそんなに関係ないし、知らなくて良いや。

「俺がこの魔剣を手に入れたのは、その聖戦から数百年後だ」

「そうなんだ…。…あれ?せんせ、聖戦って、もう何万年も前の話だよね?」

「あぁ」

「それから数百年後に手に入れた…ってことは、ジュリスは随分長い間、その魔剣を隠してたんだね」

まぁ…そうなるな。

別に、意地悪のつもりで隠してた訳じゃないぞ。

ただ必要がないから、使わなかったというだけで。

「ジュリスの宝物なんだね」

「宝物…って言うほど思い入れはないんだがな」

「何処にあったの?ジュリスが見つけたの?」

「いや、俺が見つけたんじゃなく…譲ってもらったんだよ」

「誰に?」

…それは…。

…旧い…昔の。

「…知り合いに」

「友達?」

「…いや…友達…ではないんじゃないか?」

俺も長いこと生きてるけど。

そういえば、友達と呼べる存在は…あまり、いたことないな。

どんなに友達を作ったって…俺達みたいな魔導師だと、いずれ死に別れるだけだ。

どうやったって俺の方が長生きなんだから、友達が出来ても、いつかその友達が死ぬのを見届けなきゃいけない。

そんな辛い思いをするくらいなら、最初から友達なんて作らない方がマシ。

それに何より…俺はあの聖戦で、仲間とか家族とか、そういう関係の儚さを痛感していた。

どんなに自分にとって大切な人を作っても、神様のほんの少しの気まぐれで…人の命というのはあっという間に潰されてしまう。

あの聖戦に巻き込まれて、一体どれだけの人が死んだことか。

俺の顔見知りも、あの聖戦で幾人も亡くなった。

生きている人間の方が少なかったくらいだ。

あんな風に死に別れることになるなら、簡単に友人だの家族だの、作るべきじゃない。

そう思ったから、俺は聖戦以降…容易く他人と関係を築くのを避けるようにしていた。

でも、あの頃は…俺はまだ魔導師だった。

魔導師として生きていた。あの頃はまだ。

周囲の人間との関わりを避け、魔導師であることも避けるようになったのは…『魔剣ティルフィング』を手に入れるきっかけとなった、あの一件以来だ。

「友達でもないのに、もらったの?盗んだの?」

「盗んでないって。譲ってもらったんだよ」

「そっか。そんな強くて格好良い剣をくれるなんて…太っ腹な人だね」

…太っ腹ねぇ。

本当にそうだったら、良かっただろうな。

「…そうじゃないんだ、ベリクリーデ」

「?何が?」

「譲ってもらったとは言ったが…俺がこれを譲り受けたのは、もとの持ち主が死んだからなんだ」

「…」

…もし、「彼女」がまだ生きていたら。

俺が『魔剣ティルフィング』を手にすることはなかっただろう。
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