神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「…」

ベリクリーデは、ぽやんとした顔でこちらを見つめていた。

…そして。

「…死んじゃったの?その剣の持ち主」

「あぁ」

だから、持ち主をなくしたこの剣を…俺が譲り受けたんだよ。

…形見だからな。

「そっか…。ジュリスのお友達、死んじゃったのか…」

いや、だから友達ではないって。

ただの…旧い知り合いだよ。

「可哀想だね」

「…本当にな…」

可哀想だと思うよ。俺も。

生きるも死ぬも、人の運命だとは思うけど。

彼女は生きるべき人間だったと…今でもそう思う。

「何で死んじゃったの?病気?」

「いや、病気じゃない…。…ん?いや、ある種の病気か…?」

「…??病気じゃないの?」

「あぁ、うーん…。ある意味では病気なんだが…」

俺達が一般的に想像するような病気…ではない。

病気じゃなくて…もっと正しく言えば…。

「…呪いで死んだんだ」

「呪い…?」

「あぁ。この…『魔剣ティルフィング』の呪いで」

「…!この剣、人を呪うの?」

ベリクリーデは、驚いて手元の魔剣を見下ろした。

そして。

「…じゃあ、もしかしてジュリスも呪われてるの?ジュリスも呪いで死んじゃう?」

ん?

「いや、俺は呪われないよ。俺は闇の魔力で魔剣に適合してるから…」

「この剣格好良いって言ったけど、やっぱり無しね。ジュリスを呪うような剣は、嫌いだ」

だから、俺は呪われてねぇって。話を聞けよ。

「闇の魔力を持つ魔導師にとっては、特に害は及ぼさなない。問題は…光の魔力を持つ魔導師だ」

「…どういうこと?」

…そうだな。

上手く説明するのは難しいが…。

「ベリクリーデ、お前さっき…。魔剣を持って、手がビリビリするとか言ってたよな?」

「?うん。今もしてるよ。剣に嫌われてるみたい」

剣に嫌われてる、か。

ベリクリーデにしては、なかなか上手い例えだ。

その通りだ。

「ベリクリーデみたいな、光の魔力の持ち主が魔剣を使うと、適合しない魔力の反動で、身を滅ぼすことになるんだ」

「…??どういうこと?」

「分かりやすく言えば…。お前がそのままその魔剣を持ってたら、お前も魔剣に呪われるかもしれないってことだ」

「…」

…ガシャン、と音がした。

ベリクリーデが、膝の上に乗せていた『魔剣ティルフィング』を、床に落っことしたのだ。

…落とすなよ。気持ちは分かるけども。

自分も呪われる、と思ったんだろう?
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