神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
心配は要らない。

「お前は大丈夫だよ、ベリクリーデ」

「私も触っちゃった…。呪われるんだ…。明日死ぬかも…」

「大丈夫だって」

呪われるにしたって、そんな一瞬じゃどうにもならないし。

大体、呪いを受けたからって…今日明日で命が脅かされるようなことはない。

それに、何よりベリクリーデは神の器だ。

光の魔力の持ち主ではあるが、それ以前に、この魔導師大国ルーデュニア聖王国においても、一二を争う非常に強力な魔導師だ。

お前なら、やろうと思えば、光の魔力の持ち主でありながら、『魔剣ティルフィング』を従えることが出来るだろう。

まぁ、向いてないのは確かだから、おすすめはしないけどな。

ましてやベリクリーデは、不器用の極みだからな。

「お前には無害だよ。心配要らない」

「でも、ジュリスのお友達は、この魔剣に呪われて死んじゃったんでしょ?」

だから、友達じゃないって。

「あぁ。あいつは光の魔力の持ち主で…しかも…こういう言い方はアレだが…大して強い魔導師じゃなかった」

今でこそ、俺は右を見ても左を見ても、優秀な魔導師に囲まれている。

聖魔騎士団魔導部隊隊長のシュニィを始め、クュルナだのキュレムだのルイーシュだの…。

本来なら彼ら一人一人が、一万年に一人と言っても過言ではないほどの天才魔導師揃いなのだ。

そして、今俺の目の前にいるベリクリーデだって。

…本人に全く自覚はないだろうが、ベリクリーデが本気になれば、俺を遥かに凌駕する潜在能力を持ってるからな。

それもこれも、ルーデュニア聖王国を魔導師大国として発展させ。

自身も学院を開いて、積極的に魔導師の育成に注力しているシルナ・エインリーの努力の賜物だ。

これほど粒揃いの魔導師を、ダース単位で集めた国は…ルーデュニア聖王国の他に、見たことも聞いたこともない。

魔導師自体は、様々な世界の、様々な国に存在しているのだが…。

でも、そういう魔導師は…こう言っちゃ悪いが、それほど強くない。

大抵は…うちの…聖魔騎士団魔導部隊の、ヒラ魔導師以下の実力しかない。

魔導師と言っても、ピンキリだからな。

ベリクリーデみたいな規格外もいれば、呪い師に毛が生えた程度の力しか持たない者もいる。

それでも、魔法を使えれば一概に「魔導師」と呼んでるが。

蓋を開けてみれば、人によって力量差は激しい。

当たり前だけど。

そして…ベリクリーデや、俺の今の同僚魔導師達と違って。

魔剣の最初の持ち主だった「彼女」は…残念ながら、それほど優れた魔導師でななかった。

さすがに、呪い師に毛が生えた程度…ってほどじゃなかったが…。

ぶっちゃけ、イーニシュフェルト魔導学院の一年坊主と良い勝負が出来るくらいの実力しかなかった。

しかも、多分負けると思う。

言い方は悪いけど、あいつはその程度の実力しかなかった。

「ジュリスは、その人とどうやって出会ったの?」

「…そうだな…」

もう、遠い昔の出来事だ。

あいつ…ユリヴェーナと出会ったのは。
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