神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…あの頃の俺は、まだ魔導師であることを隠してはいなかった。

ただ、あの頃から既に、根無し草ではあった。

聖戦が終結し、嵐は過ぎ去り…いつの間にか、聖戦を知らない新しい世代が生まれ。

何処か気の抜けた…良く言えば平和な毎日が続いていた。

今のように、何かの組織に加わることなく、一人で自由に旅をしていた根無し草の俺は、そのときも…宛もなくふらふらしていた。

あの頃の俺は…何て言うか、便利屋みたいなことをしていた。

村や街を歩いて巡り、困っている人に頼まれれば、魔法で解決していた。

本当に便利屋だな。

イーニシュフェルト魔導学院にいる、天音という養護教諭も…似たような旅を長いこと続けていたそうだが。

俺は彼と違って、自ら助けようとはしなかった。

天音のように、困っている人がいれば無条件に救いの手を差し伸べる…なんて優しさはなく。

「困っているから助けてくれ」と言われたときのみ、手を貸していた。

特に助けを求められなかったら、何もしなかった。

別に深い意味はない。

ただ、何事も自分から首を突っ込むと、後で厄介に巻き込まれる羽目になるから。

部外者の俺は、求められない限りは手も出さないし、口も出さない方が良い。そう思っていた。

冷たい奴だと思われるかもしれないけど。

シルナ・エインリーのような特別な才能もない俺が、こんなにも無駄に長く生きてこられたのは。

そういう、ずる賢い世渡りの術を身に着けていたからだと思っている。

あの頃の俺は、魔導師であることを隠してはいなかったと言ったな?

だから、魔法を使うことに躊躇いはなかった。

大抵の者は、俺の魔法に助けられて、素直に感謝していたが。

中には、魔法という超常的な力を見て、驚いたり恐れたり怯えたり、石を投げる奴もいた。

助けてもらってるのに石を投げるとは、罰当たりにも程があるよな。

まぁ、とにかく。

魔法を見てどういう反応をするかは、その土地柄によってまちまちだった。

…そして。

そのときも俺は、宛もなくふらふら旅をしていた。

深い森を抜けて、ようやく人里っぽい開けた土地が見えてきて。

そろそろ日も暮れてきたので、俺は今夜の宿を探していた。

野宿しても良いのだが、ここ数日ずっと森の中を歩き回って、いい加減野宿にもうんざりしていた。

折角森を抜けたのだから、今夜くらいは、出来れば屋根のある場所で休みたい。

幸い…どうやら、この先に小さな村があるようだ。

泊めてもらえれば良いのだが、まぁ…無理だったら今夜も野宿だな。

そう思いながら、俺はその村に足を踏み入れよう…、

…と、したそのときだった。





「止まれ!!」

「…っ?」

鋭い声がして、俺は思わず足を止めた。
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