神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
俺は、咄嗟に杖に手を伸ばした。

その声からして、俺に敵意を抱いていることは明らかだったから。

どうやら俺は、禁足地に足を踏み入れてしまったらしい。

「良いか、そこを動くな!」

…俺の目の前には、若い娘が仁王立ちしていた。

やたら小柄で、身長は140センチくらいしかない。

しかも、童顔だった。

その子供みたいな顔と身体で、腰に手を当ててふんぞり返っていた。

…。

…なんつーか、迫力って言うか…。

凄みに欠けるよな。

杖を握ろうとしていた手を、思わず離してしまった。

大丈夫そうな気がしてきた。

「そこを動くんじゃないぞ、この不法侵入者め。この私が成敗してくれる!」

「あー、うん…。そうか」

「さぁ、お前も剣を持って戦え。正々堂々、いざ尋常に…勝負!」

そう言って。

その娘は、黒い刀身の剣を取り出した。

剣を持っている娘は、どう見ても人畜無害なのに。

彼女が持っている、その剣を見たとき…俺は思わず背筋が寒くなった。

…何なんだ…?あの剣は…。

普通の剣じゃない。強い…闇の魔力を感じた。

あのときは、知らなかった。

でも、そのとき見た黒い刀身の剣。あれこそが。

今俺の目の前にある、『魔剣ティルフィング』そのものだったのだ。
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