神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…5分ほど、そのまま地面で目を回していたが。

「…はっ!」

しばらくして、ようやく正気に戻った。

お疲れさん。

「こ、この卑怯者め。足を引っ掛けて人を転ばせるなんて…恥ずかしくないのか!」

と、きゃんきゃん喚いていた。

理不尽だな。俺はただ、自分の身を守ろうとしただけだ。

「問答無用で斬り掛かって、あっさり返り討ちに遭ったお前は恥ずかしくないのか?」

「ぐぬぬぬ…!」

俺とお前だったら、どう考えてもお前の方が醜態を晒していると思うけどな。

「へ、屁理屈を…」

屁理屈で悪かったな。

でも、事実だから。

「ぶ、武器を取って戦え。僕と勝負…」

「武器って、これのことか?」

「あぁっ!?」

俺は、地面に倒れた娘の手から、黒い剣を奪い取っていた。

…やっぱり、見たことがない剣だ。

刀身も柄も、墨を塗ったように真っ黒。

それでいて、この剣が放つ禍々しい魔力…。

…当時の俺は、今ほど武器に詳しい訳じゃなかったが。

どうやら、この武器は普通ではないらしいことは分かった。

武器だけなら立派なんだけどな。

如何せん、それを操る剣士の腕が…。

「こ、こら。返せ!」

「嫌だね。返したら、また襲ってくるんだろ?」

あんな不毛な戦は、懲り懲りだ。

これは俺が没収しておく。

どうせ、お前には使いこなせない代物だろう。

「それは大事なものなんだ。私の…」

「ふーん」

「は、話を聞け!」

はいはい、聞いてる聞いてる。

しかし…なかなか興味深い剣だよな。

こんなもの、初めて見た。

一体何処で造られたものなのか。そして、それをどうしてこの娘が持っていたのか…。

いずれにしても、この強い闇の魔力では…。

「ほ、本当に返してくれ」

「あ?」

地面に転がったまま、しかし泣きそうな顔で、娘はそう懇願した。

「他のことなら何でもするから。それを返してくれ。それは、村を守る為にどつしても必要なんだ」

「…」

「お願いだから。お願い…します。返してください…」

「…分かったよ」

…そんな風に言われちゃ、俺も返さない訳にはいかなかった。

我ながら、甘いとは思ったが。

でも、いくら剣が立派だろうと、それを持つ剣士が三流じゃあな。

例え寝首をかかれたとしても、俺をどうこうすることは出来ないだろうし。

「ただし、もう斬り掛かってくるなよ」

「わ、分かった。斬り掛かったりしない。約束は守る」

「よし」

それなら、返してやるよ。
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