神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
歩いて村に向かいながら。

「お客人、今更ではあるが…君の名前は何と言う?」

魔剣の娘が、そう尋ねてきた。

…そういやまだ名乗ってなかったな。

「ジュリスだ。ジュリス・レティーナ」

「ジュリス殿か。僕はユリヴェーナ・オミパルドと言う」

ユリヴェーナか。

「そりゃ良い名前をつけてもらったな」

「そうか、ありがとう。君も良い名前だと思うぞ」

どうも。

名前を褒められたのは、初めてのような気がするな。

「僕の村は、すぐそこだ。…ほら、見えてきた」

ユリヴェーナの指差す先に、小さな集落があった。

既に日は落ちているが、村中至るところに、等間隔で大きな松明が掲げられ。

その明かりのお陰で、夜間でも足元が見えるほどだった。

…随分と明るくしてるんだな。

これが普通の村なら、祭りのときでもない限り、夜は真っ暗闇だが。

「ここが、僕の住む村だ」

ユリヴェーナは、誇らしそうにそう言った。

「今夜は何か…祭りか、宴会でもあるのか?」

「え?」

「あちこちに松明があって…明るくしてるから」

「…あぁ…。いや、そういう訳じゃない。この村では、毎晩これが普通なんだ」

これが普通?通常運転?

じゃ、この無理ではこうして毎晩のように、松明を灯しているのか。

変わった風習だな…。

「…危ないな。火事になったりしないのか?」

うっかり松明が倒れて、寝てる間に家が燃えたらどうするんだ。

…しかし。

「心配は要らない。どの家も交代で、家族の誰かが寝ずの番を立てている。異常があれば、すぐに気づくように」

…そうなのか。

寝ずの番…各家庭で、毎晩一人ずつ?

そりゃまた…ますます、珍しい風習だ。

夜なのに、足元がはっきり見えるほど明るく照らし。

かつ、どの家も毎晩寝ずの番を用意して、用心しているとは…。

…それはまるで、何者かの襲来を恐れているかのようで…。

「…僕の家は、もう少し先の…」

と、ユリヴェーナが言いかけた、そのときだった。

「お前は誰だ!」

「!?」

村人の、怒号にも似た声が鳴り響き。

近くにあった家々から、手製の竹槍や鉄のシャベルなどを握った村人達が、一斉に家から飛び出してきた。

な…何事だ?これは。
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